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Place: New York

ダニエル・ラドクリフ、『ハウ・トゥ・サクシード』での跳躍

Rob Ashford, Daniel Radcliffe
アートカテゴリ:  Performance

ダニエル・ラドクリフは本物のスーパースターになりえるだろうか?シリーズ8作目にして最後の『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』が、2011年の映画興行記録を打ち破っている中、ラドクリフはブロードウェイ・ミュージカル『ハウ・トゥ・サクシード(原題:How To Succeed In Business Without Really Trying)』で、歌とダンスを楽しみ、ニューヨークの観客を虜にしている。このミュージカルは、2011年3月27日から、アル・ハーシュフェルド・シアターにて上演されている。

『ハウ・トゥ・サクシード』は、ニューヨークでは、今回で3度目の公演。シェパード・ミードの小説『努力しないで出世する方法』を基にした、第1作目の『ハウ・トゥ・サクシード』は1961年10月に初演を迎え、トニー賞を7部門受賞した。そして今年、初演から50年が経ったことを記念して、『キス・ミー・ケイト』、『モダン・ミリー』、『プロミセズ、プロミセズ』で知られる、トニー賞やエミー賞の受賞演出家ロブ・アシュフォードが、新たに『ハウ・トゥ・サクシード』を蘇らせた。この作品は、今年のトニー賞で、リバイバル・ミュージカル部門、ミュージカル演出部門、振付賞を含む8部門でノミネートされ、さらなる注目を集めた。

物語舞台は1950年代、その始まりと同時に、ビグリー(ジョン・ラロケット/今年のトニー賞ミュージカル部門助演男優賞受賞)が所有するワールド・ワイド・ウィケッド社の高層ビルを、窓拭きのフィンチ(ダニエル・ラドクリフ)が、アンダーソン・クーパーがナレーションを務める『努力しないで出世する方法』という本を真剣に読みながら、ロープに吊るされて降りてくる。そして、利口でずる賢いフィンチは、その本のルールを堅く信じ、会社に雇われると瞬く間に頂点へと上りつめていく。

本作では、フランク・レッサー作の『コーヒー・ブレイク』、『ザ・カンパニー・ウェイ』、『グランド・オールド・アイヴィー』、それから『ブラザーフッド・オブ・マン』といった人気曲をアクセントに、エイブ・バローズ、ジャック・ウェインストック、ウィリー・ギルバートが作り込んだ愛すべきキャラクターたちが、アシュフォードの複雑な振付けの中で、華麗に舞い、ときに力強く跳ねる。また、装置デザイナーのデレク・マクレーン、衣装デザイナーのキャスリーン・ズーバー、照明デザイナーのハウエル・ビンクリーといった類い稀なる才能が1つになり、まるで巨大で洗練されたドールハウスのような、50年代の目映いばかりのパステルの世界をステージ上に作り上げている。

ラドクリフにとって、『ハウ・トゥ・サクシード』は、2008年の彼のブロードウェイデビュー作『エクウス』以来初めての舞台作品で、世界的にとてつもない成功を収めた映画シリーズを卒業し、彼はパフォーマーとして、そしてアーティストとしての大きな変貌を我々に見せつける。一体誰が、ハリー・ポッターが歌って踊れると想像しただろうか?いや、彼はもはや”ハリー・ポッター”ではなく、ダニエル・ラドクリフという努力を惜しまない表現者なのだ。物語で、フィンチが会社の執行役員にまで上りつめたとき、本は語りかける、『もう君を止められるものはない』と。それはまるで、ラドクリフが星のように輝くのを、もう何にも止められない、と言っているかのようだ。

『ハウ・トゥ・サクシード』は、笑いの途絶えない、皮肉的で、可笑しく、魔法のような、ブロードウェイには打って付けのエンターテイメント作品。しかし、なぜ今『努力しないで出世する方法』なのか?実利主義が全世界を支配してから、人は幻を見続け、成功や金に執着してきた。ところが、2008年の世界的経済危機がきっかけで、一体成功とは何なのか考え始めた。今我々は今までの実利主義とこれから始まる新しい概念の狭間に立っている。幸運なフィンチが成功の向こうに新しいアイデアを見出した時、果たして我々は何を学ぶのだろうか。

text by 岡本太陽