Interview

 
 
Place: New York

石橋義正監督、新作映画『ミロクローゼ』を語る

Yoshimasa Ishibashi
アートカテゴリ:  Film

今年で記念すべき第10回を迎えたニューヨーク・アジア映画祭。発足時は、1週間で11本の映画を上映したに過ぎなかったが、年々規模も拡大し2週間で40を超える作品を上映するまでに成長した。今では、メジャーな新聞やカルチャー雑誌などでも取り上げられ、映画好きを楽しませる夏の一大イベントとなっている。

本映画祭では観客の投票によって最高賞にあたる観客賞を設けているが、これまでに、『猟奇的な彼女』、『ALWAYS 三丁目の夕日』、『嫌われ松子の一生』、『愛のむきだし』といった作品が観客賞を受賞している。今年は『十三人の刺客』『海洋天堂』、『劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ』、『ビー・デビル』、『黄海』といったバラエティ豊かな作品がラインナップされ、中村義洋監督映画『ちょんまげぷりん』が観客賞をさらった。

またこの映画祭には、2年前から参加する監督や俳優にも賞を与えており、今年はツイ・ハーク氏が監督賞を、山田孝之氏が俳優賞を受賞した。まだ20代ながらも個性的な演技を披露する山田氏に注目した本映画祭、なんと彼の出演作は4本も上映された。その中の1つで、テレビ番組『バミリオン・プレジャー・ナイト』の制作者としても知られる石橋義正監督の新作映画『ミロクローゼ』が華々しく本映画祭のオープニングナイトを飾り、上映後、石橋監督と山田氏が舞台に登場し喝采を浴びた。

3つの異なる物語で構成され、それぞれの物語の主人公に山田孝之氏が扮する『ミロクローゼ』。石橋監督はこの作品について『遊園地のアトラクションのように楽しんでもらいたい』と舞台上で語った。石橋監督に、彼の想像力がまるで鮮やかな夢のような世界を描き出した『ミロクローゼ』について語ってもらった。


それではまず映像作りを志したきっかけを教えて頂けますか?子供の頃に着物作りの職人である父に、よく映画館に連れて行ってもらっていて、映画を観ることが好きになりました。そんな大好きな映画を作る映画監督になるにはどうしたら良いのか分からなかったので、とりあえず高校生の頃から美術を勉強し始めたんです。後々には映画制作に進むつもりではいましたが、いざ美術を勉強しだすと、美術にも興味を持つようになり、今では映画を作る傍ら、映像を含んだインスタレーションを制作したりとアーティストとしても活動しています。父の影響でものを作るということに自然と興味を持つようになったんだと思います。

初長編映画『狂わせたいの』はどのような経緯で制作されたのでしょうか?ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)というロンドンにある大学に短期留学をしたときに、そこの映画科で勉強し、コースが終了してすぐに制作に取りかかりました。当時は27歳で、そのときは単純に子供の頃からの夢を形にしたいと思い、フィルムで撮ったものが『狂わせたいの』でした。

奇抜でかつ笑いのある映像が石橋さんの魅力だと思うんですが、アイデアはどういうときに思いつきますか?僕はあえてコメディを作ろうとは思っていないんです。しかし、インスピレーションを受けて、映像作りに取り入れようと思うことがだいたいおかしなことで、それをかたちにしようとするとコミカルになってしまうんです(笑)人間観察が好きで、何かあったらメモを取ったりしてます。それから、旅行も好きなので、そのときに見た風景や状況、体験したことが作品のアイデアになっています。

アメリカで映画作りをしている友人に石橋さんが制作された『バミリオン・プレジャー・ナイト』を教えてもらったんですが、海外でもカルト的人気を誇るあの番組はどうやって誕生したのでしょうか?『狂わせたいの』を観られたテレビのプロデューサーに、テレビ番組を一緒に作らないか、と話を持ちかけられたのがきっかけで、例えば放送作家の集まりであるモンティ・パイソンみたいな番組にしようと話し合いました。しかし僕は放送作家でもコメディアンでもないので、アートを含みながら、テレビでオンエアして多くの人が楽しむことの出来る番組にしようと考えました。しかし番組の内容的になかなかスポンサーも付かないので、そのプロデューサーがテレビの枠を買って、オンエアするという運びになったんです。無理な計画を立ててやりました。

『ミロクローゼ』についてなんですが、非常に丁寧に作り込まれた作品だという印象を受けました。準備にどれくらい要したのですか?脚本を書き始めてからと考えると5年です。様々なアイデアを練っていったのでかなり時間はかかったと思います。


主演は山田孝之さんですが、彼を選ばれた理由を教えて下さい。普段は女性の特定の仕草や表情に魅力を感じ、それを撮るために女性に焦点を当てた作品が多いのですが、山田さんの場合は端正な顔立ちをされていることに加え、彼の他の作品を拝見したときに、彼独特の目つきや表情に造形的な美しさを感じました。それで是非一緒にお仕事をしたいと思ったのです。


彼の演技のスタイルは?アドリブも多いのでしょうか?
彼は脚本に書かれていることを理解し、それを丁寧に演じる俳優だと思います。

映画監督の鈴木清順さんが出演されているんですが、彼の出演経緯を教えて下さい。まず彼はキャスティングの候補に挙がっていたんです。わたしも彼の作品は好きですし、彼と親しい友人であるプロデューサーが、直談判に行ったところ、内容は分からないけど出るという答えをいただきました(笑)

登場人物の名前がすごくユニークでしたね。実はネーミングが大好きで、普段は名前の響きが残るようなものを考えます。例えば、登場人物の1人オブレネリ・ブレネリギャーに関しては、しつこくその名前が何度も出て来るにも関わらず言いにくいというのが面白いと思いました。それから、映画の中に出て来る「旅館なきゃむら」もとても良いネーミングだと思いました。「りょかんなきゃむら」って相当言いにくいんですよ(笑)

『ミロクローゼ』は時間も場所も違う3つの物語によって構成されている映画ですが、その理由は?長編の場合、僕が描いた断片的なイメージをどう1つの作品の中で組み合わせていくか、ということを考えるんですが、今回はそれを1つの作品の中で組立てるよりも、別々の物語として構成し、しかもオムニバスではないように感じさせる方法はないのだろうかと考え、実験的な作品に仕上がりました。

物語同士どこかしら繋がっていて、仏教的というかスピリチュアルな印象を与える作品ですよね。わたし自身仏教に興味があるので、仏教の人生観が作品に表れていると思います。

仏教に興味を持たれた理由は?日本人でありながら知らないことが多すぎるので、一度仏教の入門書を読もうと思って、それを読んでみたらとても面白かったんです。今回の作品も禅的な空気が流れていたり、諸行無常的な思想が含まれています。人生はなんとでもなると、前向きになれる考え方が好きなんです。

石橋さんの物語は、きれいに完結しなくても完結してしまう印象を受けるんですが、石橋さんのストーリーテリング哲学を教えて頂けますか?特にそのことについてじっくり考えたことはないのですが、今までの自分の作品を考えると、物語をきれいに完結されるのは嫌いかもしれません。物語がずっと続いて行って欲しいですし、最後に主人公に去って行って欲しいんです。その後にあるドラマに僕は引きつけられます。

今、社会は目まぐるしく変化していっていて、そんな中で政治的な映画やアートをよく目にしますが、石橋さんは政治的な枠からは離れた作品を作られている印象を受けます。意識的に夢想的な作品作りを心がけていらっしゃるんでしょうか?特に意識はしていません。ただ、アートに携わるものとしての宿命はイマジネーションを伝えるということだと強く感じています。人それぞれ表現の仕方は全く違いますが、僕はイマジネーションを大事にしていて、それによって社会も変わっていくと信じています。

子供の頃に影響を受けた映画は?まず一番最初に衝撃を受けたのは『スター・ウォーズ』で、子供ながらにすごいイマジネーションを見せつけられた気がしました。ただの活劇ではなく、オリジナルな世界観があり、しかもそのクオリティの高さに感動しました。そこで、僕も自分の想像したものを形に出来ないかと子供の頃に夢見ました。

『ミロクローゼ』は海外で上映する機会が何度かあられたと思うのですが、海外で上映する楽しさは何ですか?国によって少し反応の違いがあることですね。3つの物語は極端に違うので、その違いをどう海外の人が受け止めるのかということに興味もありつつドキドキします。また今の段階では映画祭に出品しているだけで、映画祭の方向性によっても客層が違うので、ほんとうに反応は様々ですね。ニューヨークの上映時は反応が大きく盛り上がりました。

ニューヨーク滞在中はどのようにお過ごしですか?今回のニューヨーク訪問は実は4度目なんですが、今回が今までで一番長く滞在しており、『ミロクローゼ』の上映以外の日は、ミュージカルを観に行ったり、買い物をしたり、ニューヨークを満喫しています。


今回のニューヨーク滞在でインスピレーションを受けたことはありましたか?
だいたい旅行に行くと旅行中にはピンと来なかった事でも、日本に帰ってからジワジワ出て来ることが多いですね。今回の滞在の経験もまた後々の作品に生かされるのではないでしょうか。

 

 

text by 岡本太陽