Interview

 
 
Place: New York

トライベッカ映画祭を揺るがした歌と踊りと河童とエロス『おんなの河童』

Shinji Imaoka, Sawa Masaki
アートカテゴリ:  Film

初恋の相手は忘れない…17歳の時に沼で溺れ死んだ青木哲也(梅澤嘉朗)が十数年ののち、結婚を間近に控えた初恋の相手・明日香(正木佐和)の前に河童となって突然現れる。映画監督いまおかしんじが手掛けるファンタジックな『おんなの河童』は、心の奥に眠っている甘酸っぱい気持ちを呼び起こすようなスイートなピンク・ミュージカル。ピンク映画製作会社「国映」創立50周年を記念して作られた日・独合作の本作が、今年のトライベッカ映画祭に日本から唯一選出され、ピンク映画というジャンルに馴染みの薄いニューヨーカーを驚かせた。

映画の舞台は蓮根畑の広がるちょっと寂れた海沿いの町。そこをしっとりと情緒的に映し出すのは多くのウォン・カーウァイ作品を手掛けたことで知られ、近年、M・ナイト・シャマラン、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントといった中国圏外の映画監督の作品にも携わっている撮影監督クリストファー・ドイル。ピンク映画にクリストファー・ドイルという意表をつく組み合わせだが、彼の手に掛かれば、河童と人間による想像を超えた濡れ場も繊細な優しさすら感じさせる。

明日香は映画の中で、ドイツのフレンチポップデュオ ステレオ・トータルの曲に合わせ自由に歌い踊る。本作は河童になった青木の出現理由をゆっくり紐解きながら、一度は上京したものの、現在地元の水産物加工場で働きながら結婚までの日を待つ明日香の心を歌で探索してゆく。リアルな暴力は描く傍ら、セックスには非常に敏感なアメリカ映画界。そんな中、歌と踊りをエロスと融合させた“ピンク・ミュージカル”という新しいコンセプト:『おんなの河童』は、ニューヨークを代表する映画祭で異端を呈していたが、今回数ある作品の中でも、最も忘れられない、映画祭で上映する意味のある作品の1つであったことは確かだ。

ニューヨークはチェルシー地区にあるGEM HOTELにて、COOLは『おんなの河童』でトライベッカ映画祭を訪れたいまおかしんじ監督(左)と主演女優・正木佐和さん(右)にインタビューを行った。

 

ピンク・ミュージカルとして紹介されている『おんなの河童』がトライベッカ映画祭のラインナップに選ばれた理由は何だと思われますか?いまおか:いや~、なんなんでしょうね。インディペンデント映画であり、何かしらそこに新しいものをやろうとしているものを集めているのかなという気がしています。それからピンク映画というジャンルは世界に唯一日本にしかないので、そこに着目してもらえたんでしょうか。

この映画がニューヨークで上映されることに関して、どういうお気持ちですか?いまおか:非常にうれしく思っています。日本で映画を作って、日本で上映するだけでは出会えないお客さんに出会えますし、ニューヨークの方は絶対観ないジャンルの映画だと思うので(笑)、それを敢えて観てもらえるということにとても感激しています。

トライベッカ映画祭が『おんなの河童』のワールドプレミアでもありましたが、その際のお客さんの反応は?正木:みなさん盛り上がってくれてニューヨークをビンビン実感しました。

もともとこの映画はピンク映画として撮ろうと思われていたんでしょうか?いまおか:そうですね。普段ピンク作品は超低予算で、4、5日で撮るんですが、今回は、僕が3、4年前に出会ったドイツ人プロデューサーのステファン・ホールが、僕のピンク作品や他の監督のものを観てくれていて、製作に参加したいと言ったところから話が進み、そこでどういうものを観たいのかという話合いをしたところ、彼はインド映画が好きで、ピンク映画であり、ミュージカルみたいなことは出来ないか、となったのがピンク・ミュージカルを作るきっかけです。それだけに予算も増え、出来ることも広がったんです。

ミュージカルのリサーチ等はされたのでしょうか?いまおか:インド映画も観たんですが、素人集団には絶対無理だと思いました(笑) 僕は映画『サウンド・オブ・ミュージック』がとても好きなんですが、たまたまリバイバル上映が大きな劇場でやってたんです。それで歌のシーンになると泣けるんですよ。そんな風に出来ると成功なんだなと思いました。

ミュージカルシーンの雰囲気はわりとクラシックなミュージカル映画みたいだと感じました。いまおか:それは良かったです(笑)

正木:『サウンド・オブ・ミュージック』は子供の時から毎週家でも上映するくらい好きで、大学の音楽発表会でも“クライムエブリマウンテン”を歌い、その時は歌いながら感動して泣いてしまいました。歌の力って偉大だと思いました。そして、ミュージカルは凄いと思っていましたが、まさか自分がやるとは思いもしませんでした。

わたしはおんなの河童の世界観に“大人の宮崎駿”的な要素を見出したんですが、まずどうして河童だったのでしょうか?いまおか:先程紹介したステファンと企画を始めるとなった時に、映画のタイトルは『だんなさまは18歳』だったんです。女教師と生徒が実は結婚していて、それをみんなに隠すというストーリーで、『おくさまは18歳』を真似た学園ドラマでした。しかし、出演者でもある守屋文雄と脚本を書いている段階で、アイデアに疑問を抱くようになりました。そこで、守屋が咄嗟に「河童出していいですか?」と言ったんです。なので、始めから河童を描きたかったわけではなかったんです。その後、河童がいない版や、いる版等を書きながら、3年間くらいシナリオを練っていたんですが、やっぱり河童が出て来ないと寂しいんですよね。だんだんとやっていく中で、河童が身近なものになり愛着が湧きました。

河童がセックスシンボルであるという話を聞いたことがなかったんですが、何か元ネタみたいなものがあったのでしょうか?例えば、昔誰かが河童に犯されたことがあったとか…(笑)いまおか:(笑)結構そういうところから始まっているんだと思います。「河童が絶倫でさぁ」とか、絶頂に達すると死んじゃうとか(笑) 河童の頭の皿が乾くと力が弱くなると言いますが、それを性的なことに絡めてやろうとは考えていました。だんだんとそういうことはなくなっていったんですが、映画の中に出てくる“シリコダマ”等性的な要素はまだ残っていると思います。

クリストファー・ドイルさんがピンク映画を撮ったということに多くの方が驚いていると思うんですが、彼の本作への参加のアプローチは?いまおか:彼は陽気でラフな人柄同様、仕事の時も、作品の規模には特にこだわらないフットワークの軽い方で、「10人の撮影現場もやるし、300人の現場もやる」と言ってました。

正木:あとピンクとホラーに興味がある、ともおっしゃられてました。

なるほど、彼自身ピンク映画を撮ってみたかったんですね。彼の撮影プロセスはどうでしたか?いまおか:早いですね。悩んだりはせず、ノリでどんどん進めていきます。

正木:「今この光が良いからすぐに撮ろう!」みたいなノリです。

いまおか:テストさせてくれないんです。こっちとしては何度もテストしてシーンを固めていきたいところなんですが。流石だなと思いました。

正木:光や空気を敏感に察知し、それらと上手く遊んでいる印象を受けました。自分の感覚を非常に大事にしていらっしゃるんだなと思いました。

では、現場は結構クリスさん中心だったとか?いまおか:そうですね、クリスさんのノリになんとかついていく感じはありましたね。

正木:それでも監督が悩み出したら、クリスさんも遠慮してました(笑)

これは非常に聞きたかったのですが、上司・彼氏役の吉岡睦雄さんと、河童とではラブシーンはどう違いましたか?正木:(笑)全く違いました!わたしはピンク映画に出るのは生まれて初めてだったので、始めはとても不安だったんですが、吉岡さんはリードするのがお上手で、彼に身を委ねるだけで大丈夫だったんです。でも河童の青木君(役名)はまだピュアな高校生なので、わたしがリードしなくてはいけないし、それでいてわたしの役の明日香は青木君といるときは気持ちが高校生に戻っているので、青木君とのラブシーンはとても難しかったです。

撮る側としてはどう感じられたんでしょうか?いまおか:わたしとしては芝居を成立させれば良かったんですが、見た目が(笑) 獣姦ですからね。最後なんて、、、もう笑っちゃうしかないですよ。

正木:そんな中わたしは必至なんです(笑)

いまおか:撮影の助手の方々の中には途中で吹き出してしまう人もいました。単に河童の被り物をしているだけなのに、こんなにも印象が違ってくるのかと面白かったです。

正木:苦労しましたよ。

あと、シリコダマの見た目も凄かったですよね。正木:あれは日本でも有名な西村映像さんに作っていただいたんです。気持ち悪かったです。河童のコスチュームもそうです。

いまおか:最初はコスチュームだけだったんですけど、もうちょっとついでに頼もうということになり、いくつか他のものも作っていただいたんです。

正木:シリコダマを実際見たらたぶん触れないと思いますよ。

そうなんですか!いまおか:僕はそんなことなかったけどな(笑)

作ったのは1つだけなんですか?いまおか:そうです。

貴重ですね。では、これは最後の質問になります。アメリカではセックスを公の場で語ったり、表現したりというのは結構タブーなんですが、リアルな暴力描写は好んで描く傾向にあります。その点、例えばテレクラの広告とか看板が堂々と街の中で見つけられたり、、日本では性に関しては意外とオープンな気がするんですが、今のアメリカ社会や、日本社会についてはどう思われていますか?いまおか:他の監督と話す機会があったのですが、その方は今の社会に抗議したいことや伝えたいことがあるから映画を作るんだ、という意見を持っていて、それがない映画は面白くないと言うんですが、僕はそういう意識を持たない様にしているんです。しかし、やっているうちに例えば暴力についてどう感じているかだったり、世の中どういう意識を抱いているかというのは自然と出てくるものだと思うので、自分で意識しなくても映し出されているではないでしょうか。

脚本も書かれたいまおか監督によって生み出されたキャラクターはみんな優しかったですよね。正木:憎むべき人が出て来ないですよね。そこはとても素敵だなと思っています。暴力的な部分もみんな持っているんでしょうけど、それを出せない人は魅力的に映ります。

いまおか:馬鹿な人が多いというか、、、(笑) 偉くない、底辺や隅っこにいる様な人たちが好きなんです。とても応援したくなります。

 

text by 岡本太陽