Interview

 
 
Place: New York

池田亮司 『作品がすべてを語っている』(前編)

アートカテゴリ:  Visual Art, Installation, Music, Multi Media, Architecture

2011年5月20日より、ニューヨークのパーク・アベニュー・アーモリーで、池田亮司氏の巨大インスタレーション「 the transfinite」が開催される。

 

 

既存の芸術観から逸脱し、デジタル・テクノロジーのマインドがつくりだす池田亮司の世界。それは、音楽やアートだけでなく、映像、建築、ダンスなど、パフォーマンス表現のカテゴライズの枠を取り外し、鑑賞する人々を別次元へと誘う。池田作品を体感することにより、我々の全感覚は強烈に刺激され、未知の感覚が開拓される。

 

静謐な雰囲気のなかで行なわれている設置作業の合間をぬい、「インタビューは久しぶり」という池田亮司氏が、自らの言葉で「池田亮司の世界」について語ってくれた。

 

『作品は体験するもの』

 

すごく大規模なインスタレーションですよね。パーク・アベニュー・アーモリーの会場は、街の1ブロック分ほどもある空間ですが、それが小さく見えます。

 

以前、パリのグラン・パレでもインスタレーションをしましたが、ここより4倍ほど大きな面積で、天井も倍ぐらいでした。そこは100年前の万博のために建てられた場所ですが、ただそのときはグループ展だったので、作品自体は大きな作品を一点展示しただけでした。でも今回は、ニューヨークで一番大きな、しかも街のど真ん中にある会場を独り占めできるので、本当にラッキーです。

 

ニューヨークからパリに活動の拠点を変えたのには、何か特別な理由があるのですか?

 

いや、特にはありません。ニューヨークであろうとパリだろうと、作品をつくるうえではどこに住もうと一緒ですから。

 

日本に住んでいても?

 

う〜ん、日本はね…プロジェクトがほぼ欧米中心なので、 物理的に遠いんですよね。過去20年、旅ばっかりでしたから、活動の拠点がニューヨークとかヨーロッパとかだとやっぱり楽です。移動ばかりだから、スーツケースが“家”です(笑)

 

今回の展覧会の前にもヨーロッパで展覧会されていますよね。

 

展覧会のことを言う前に、実は、僕はそもそもミュージシャンなんですよ(笑)というか、コンポーザー(作曲家)なんです。そこから始まっているんです。

 

では、池田さんの制作基盤はコンポーザーが軸となっているのですね。

 

そうですね。大きく分けると活動の範囲が3つあるんですよ。ひとつが音楽で、コンサートとかやっていて、もうひとつはエキシビションとかのビジュアルアート、あともうひとつがパブリック・アートなんです。それは、都市と関わるような大規模なものです。

 

たとえば、僕がエキシビションをやっていて、アーティストだと思って来る美術関係の人たちなどは、僕が本当にミュージシャンだとはあまり知らない。逆にコンサートにやってくる人たちは、僕がエキシビションをしていることを全然知らなかったり、興味すらなかったりする。あるいは、大規模なパブリック・アートとかに来てくれる家族連れの人たちや、市長さんとか、そういった人たちは、僕が音楽や美術をやっていることすらピンと来ないみたいです。

 

(カタログを手にして)これは東京都現代美術館で個展をしたときのカタログですが、例えば、この作品は高さが4センチなのに長さが10メートルくらいあって、大きすぎて全体が写真に納まりきれない。でもこの作品をよくよくみると、映画の35mmのフィルムに何百万もの小さな数字がプリントされているのに気付く。「すごく細かくて巨大」。展覧会の他の映像作品なんかも全部こんな感じでした。

 

こっちはパブリック・アートですが、光を使った作品をいろんな都市でやっています。パリ、アムステルダム、バルセロナ…日本でも去年、名古屋城でこの光を使った屋外インスタレーションをしました。この強烈な光は成層圏まで届くので、まず航空局の認可を得るところから始まります。

 

コンサートは、基本的に舞台に僕自身が上がることはなく、オーディオ・ビジュアルコンサートというスタイルで、映像と音でいろんなことをやっています。なかなかひと言では説明できませんが。

 

とにかく、音楽だけでなく、そういった本当に違ったさまざまな要素を作曲というか、構成というか、コンポーズするのが、僕のアーティストとしての軸になる部分なんです。

 

これだけ大きなプロジェクトを抱えて、別々のフィールドで表現していくうちに混乱することはないのですか?

 

全然ありません。イタリア料理をつくり、和食もつくる。その食事をレストランで食べるのと、総菜屋とでは、同じ料理でも違ってくる。場所と方法でテイストは変わってくるけど、イタリアンはイタリアンで、和食は和食。そう思ってくれるとわかりやすいかもしれませんね。やりたいことはいっぱいあるので、それで困ることはありません。むしろ、自分を限定せず、もっともっといろんなことにチャレンジしたいです。

作品の発想は、どこからくるのですか?

 

自分自身で意識していなくても、きっと24時間作品のことを考えているんだろうけど、考えているから何か生まれるというのとは違うと思うんです。何かがあるから何かを考えるのではなくて、考えなくても、瞬間で答えが出るときだってある。

 

いつも頭の中が、アイデアや、やりたいことでいっぱいなのは、他のアーティストも同じだと思いますよ。 今回の場合は、ここ(パーク・アベニュー・アーモリー)へ下見に来て、5秒で「OK。はい決まり」でした。 最初の印象を持ってパリに帰って、あれこれいろんなことを考えて、他のアイデアとかもいろいろ試してみましたが、結局は第一印象のアイデアに戻りました。毎回そうではないですが、今回の場合は5秒。場所の持つ力とか空間とかもその時々で左右しますし。この作品についていえば、こっちの世界とあっちの世界をつくって、デリケートな部分とダイナミックな部分があってと…でも今は、それ以上は言葉にできない。まだ設置している段階ですしね。

 

たった三日前に始めたとは思えないぐらい、設置作業は順調に進んでいるようですね。

 

そりゃあ、みんなプロが集まってやってますからね。このインスタレーションでは、映像とか音楽とか中身の部分のすごく細かな調整が必要なので、これからが正念場です。それは外側の建築部分ができあがってからの話ですが、まあ、毎回こんな感じです。

 

パーク・アベニュー・アーモリーが大きなインスタレーションの展覧会を開催するようになって、池田さんが3人目です。最初はエルネスト・ネト、去年はクリスチャン・ボルタンスキーでした。世界的に活躍する多くのアーティストの中から、日本人アーティストが選ばれたというのもかなり画期的なことだと思うのですが、どのような経緯で今回の展覧会の企画が始まったのでしょうか?

 

別段変わったことはなく、パーク・アベニュー・アーモリーの方から依頼がきて、じゃあやりましょうか、って感じで始まりました。展覧会は全てコミッションです。 場所については自分からは選べません。まず美術館や劇場や街のほうから「やりたい」と言っていただかないと。

 

今回の作品は、池田さんのキャリアのなかでも、最大級のスケールを誇る初めてのインスタレーションとなるそうですが。

 

屋内では初めてですが、スケールの話で言えば、先ほど説明した光のパブリック・アートは屋外で、それだと、これよりずっとでかいですよ。15キロメートルもの距離で、成層圏すら突き抜けてますから。まあ、大きければすごいだろってものでもないんですけどね(笑)

 

それだけ大きなプロジェクトを動かすには、様々な問題がありそうですが。

 

 

インスタレーションで苦労しないことなんてありません。毎回いろんなことがありますよ。問題なんてあって当たり前。人生なんて問題だらけ。そうじゃないですか? 大きかろうが小さなギャラリーでの展覧会だろうが、どんなプロジェクトでも必ず問題は起こるから、一緒なんです。問題が起こったら、とにかく解決策を探す。その繰り返しです。できれば感情抜きで。それについては、大きさは関係ないです。

 

微細にこだわる部分と、大雑把になる部分とがあるということでしょうか? 例えば、作品も細かなプログラミングから生みだされた巨大な創造物というような…

 

う〜ん…作品のことは、まず作品をみてもらうしかないですね。細かいとか大雑把とかそんなんじゃなく、答えがないんです。説明なんていらない。体験としては強烈です。通常の美術館では見られないような、ものすごく強い体験なんです。一番近い説明は、強烈なロック・コンサートみたいな感覚かな。美術鑑賞的な「見る」というよりはコンサート的な「体験」するというほうが合っていると思います。

 

人それぞれ、鑑賞の楽しみ方はいろいろあるので、別に僕からどういう見方をしてくれとか、メッセージがあるわけじゃないんです。100人なら100人の、個人個人の答えがあるわけで、僕の作品を「絶対に嫌いだ」という人だっていると思うし。とにかく、予備知識なしで、なるべく純粋に体験してもらいたいんです。

 

メディアにあまり出ない理由というのはそこにあって、テレビとか新聞とかにいっぱい出て、作品について語り、有名になって、芸能人みたいになって、「有名な人の作品を見に行く」感じになっちゃうような、そんなものには全く興味がないんです。僕の身体とか言葉とか、僕自身のことについてはどうでもよくって、作品が全てなんです。僕は作品をつくりたいだけ。そんなわけで、マスメディアは丁重にお断りしています。やっぱり、あんまりいい顔はされませんが(笑)

 

僕個人の意見としては、作品を見てくれる人に対して、これこそが真摯な態度だと思ってます。余分な情報はいらないんですよ。

 

では、マスコミに登場しないことは、純粋に池田作品に接してもらうための手段ということですか?

 

純粋に作品に接してもらうことは、アートとしてとても普通のことだと思います。作家本人がしゃしゃり出て行くような派手なプロモーションというのは、いくらいい作品を作ったとしても、何かをねじ曲げるような気がしてなりません。作品さえきちんとできていれば、あとはプラクティカルな情報だけで良いと思うんです。日程や場所など。それに作品の写真があれば充分だと思います。所詮、たかがアートで、きばって妙に構えたり、必要以上に派手に着飾る必要なんてないと思います。

 

とはいえ、僕もやっぱり人間ですから、矛盾するようですけど、今回はいくつかのインタビューを渋々ながら(笑)でも楽しく引き受けさせていただきました(笑)特に今回のような、僕でも把握できないぐらいの大勢の人々が関わっているような巨大なプロジェクトの場合は、インタビューを固辞しすぎることで、逆に多くの人たちの人間関係を破壊してしまうことにもなりかねませんから。

 

ニューヨークのようなアートがビジネスと密着していて、例えば、アートショウの時期には、直接NY市に大きな経済効果をもたらすような都市においては、アーティストが自分の作品価値を高めるために、先に自らをプロモーションすることは多いと思うんですが。

 

確かにそうですね。彼等はアートだけでやっているから、競争ですよね。そうせざるを得ないかもしれないけど、僕の場合は音楽があるから、いい意味で逃げられる(笑)別に守るものがないんですよ、はっきり言って。アートでも音楽でも、アーティストとしてあるひとつのジャンルに生きていると、限られたコマを取り合ってしまうことになってしまうから、そりゃあもう必死ですよね。僕は、経済的な意味でも、アーティスティックな意味でも、競争という部分が見えるとまず逃げちゃいます。勝手にぷらりと好きなことをやっていけたらそれで満足なんです。

 

だから,僕の場合はノン・プロモーションがプロモーションになっちゃってる、究極の引き算です(笑)何にもしてなくても、勝手にみんながストーリーをつくりあげていってる。ミステリアスだとか、マスコミ嫌いだとか(笑)何にも言わないことが一番多くを語るというか、みんながそれぞれ勝手に想像してくれるからいいんですよ。言えば言うほど、言った本人がその言葉に拘束されていくというか、固まっていくんじゃないでしょうかね。

今回の展覧会で、実物大の池田亮司の世界に初めて触れる鑑賞者というのは、私も含めてかなり多いと思うんですよね。初心者にとって、一番最初に興味を持つのは、こんなぶっ飛んだ作品をつくった人って、一体どんな人なんだろうと思うんです。電子工学や数学的の知識が必要となる池田作品のクリティックを、哲学的に突っ込んで、サイン波がどうで、正弦波をどうのこうのとあったら、そこで大半の人はギブアップしちゃう。それよりは、もっと素直なところで、池田さんの作品に接していければと思います。

 

そうですね。専門的なことは話すつもりはありませんし、その必要もありません。そういうことは制作の段階で必要なだけなんです。技術的なことを話せと言われれば、いっぱい喋ることはできますが、それって意味ないと思います。本当に作品が全てなので、取材をお断りする際も『Work speaks for itself/作品が全てを語ってる』そのひと言です。とにかく、コンサートに行くような感覚で、今回の展示も体験しに来て欲しいです。

 

(後編はCOOL下半期号に掲載予定)

 

Ryoji Ikeda “the transfinite”

 

Park Avenue Armory May 20- June 11, 2011

643 Park Avenue NY NY 10065

P (212) 616-3930  F (212) 249 5518

www.armoryonpark.org

 

GENERAL INFORMATION

Open Hours Tuesdays – Sundays: 12:00pm – 7:00pm Thursdays: 12:00pm – 9:00pm Monday, May 30 (Memorial Day): 12:00pm – 7:00pm Closed all other Mondays   Special Viewing Hours for Members Saturdays: 11:00am – 12:00pmAdmission   $12 General Admission $10 Students (with ID), Seniors (65+), Groups (8 or more) FREE: Children 10 and under FREE: Park Avenue Armory Members   Public Programs   Artist Talk: Ryoji Ikeda in Conversation with Kristy Edmunds Saturday May 21, 2011 2:00pm FREE with purchase of Installation tickets. Pre-registration Required.



Interview: Sai Morikawa