Artist

 
 
Place: New York

グレッグ・アラキ『KABOOM』

Gregg Araki
アートカテゴリ:  Film

「『ミステリアス・スキン』は確かに素晴らしい映画だけど、“いわゆる” グレッグ・アラキ映画をまた観てみたい、と言われたよ」、と尊敬する映画監督ジョン・ウォーターズが言った言葉を、新作『KABOOM』のためニューヨークを訪れた映画監督グレッグ・アラキは嬉しそうに語る。


ロサンゼルス生まれサンタ・バーバラ育ちの日系3世のグレッグ・アラキ。ゲイである事実をオープンにし、インディペンデント映画界で活躍する映画監督だ。主に現代の若者の姿を描く彼は、サンダンス映画祭にも選出された1992年の『リビング・エンド』で辛辣な眼差しを持つ監督として知名度を上げ、続くジェームズ・デュヴァルを主演に迎えた三部作『トータリー・ファクト・アップ(94)』『ドゥーム・ジェネレーション(95)』『ノーウェア(97)』では同性愛映画の枠を超え、人気を不動のものにする。特に『ドゥーム・ジェネレーション』と『ノーウェア』はカルト映画として認められ、 ファンの間でも好きな作品に挙げられることが多い。



ヴェネツィア映画祭でプレミア上映された2005年の『ミステリアス・スキン』では、今や有名映画監督からの出演オファーの絶えないジェセフ・ゴードン・レヴィットを主演に迎え、性的虐待を受けた過去に悩まされる2人の青年の過ごす日々を優しいタッチで描き、批評家から大絶賛された。2007年の『スマイリー・フェイス』はカンヌ映画祭やトロント映画祭で上映され、2000年代は名実共に映画監督としての確固たる地位を築いた。


そして2011年1月にアメリカで公開を迎える新作『KABOOM』では、2010年に再びカンヌ映画祭に招待され、国外での彼の人気を強さ伺わせた。アラキ氏自ら“いわゆるグレッグ・アラキ映画”と位置付ける本作の主人公は寮に住むごく普通の大学1年生のスミス(トーマス・デッカー)。彼が公園で殺人を目撃してしまった事から恐ろしい陰謀に巻き込まれていくという、特に90年代のアラキ作品を彷彿とさせる物語となっている。

 

何もかもが不確かで不安定な大学1年目。目の前にはクエスチョンマークだらけで、一体自分が何もので何ができるのか分からない。そんな混沌とした危険な冒険の様な日々を、アラキ氏は『KABOOM』の中で人生で最も生き生きとした時として描いている。人生何が起こるか分からない、というアイデアから派生した彼の90年代のツァイトガイストともとれる世界の終末を意図するテーマが、時を経て再び『KABOOM』という新作へ受け継がれているようだ。



『KABOOM』はまた、原作のあった『ミステリアス・スキン』と『スマイリー・フェイス』の後初めてのグレッグ・アラキによるオリジナルストーリー。デヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』の様に不可解な事が不規則的に起こるミステリー作品を作りたかったという彼は、脚本を書いている段階で、作品の持つ自由さから生み出される不思議なエピソードの数々に常に驚かされたという。また物語に登場するキャラクターは映画スターの様で、映画だからこそその中の世界は現実よりも大きく、観るものを全く違う次元に導く。


例えば、ティーンエイジャーのセックスシーンにポジティブなエネルギーを吹き込む等、常に偽善的なアメリカ映画のタブーを破り続けてきたアラキ氏。「年を重ねるにつれ、前みたいに憤りを感じることも少なくなって、考え方もポジティブで、心が軽くなっている様に感じるんだ。」と現在51歳の彼は語る。そんな彼が、90年代のスタイルに立ち返ったのは実に興味深く、同時に作品に恐怖や虚無感が宿っていないことに精神の変化をみることができる。

 

魂が求めていたのか、『KABOOM』のアイデアはジョン・ウォーターズに促される前から実はあったという。しかしアラキ氏がどんな映画を作っているのか、彼の憧れの映画監督が関心があるという事実に気付けたことは、人間よりも遥かに大きな存在にメッセージを受けたかの様に、人々はまた”いわゆる”アラキ作品を観たいのだと彼に確信させた。『KABOOM』はグレッグ・アラキの新しい章の始まりを告げる。



text : Taiyo Okamoto

photo: Joseph Reid