Film Freaks

 

Mishima -A Life in Four Chapters-

アートカテゴリ:  Film

僕がニューヨークで生活をしはじめたころだから数年前のことだ。はじめて日系書店に行ったとき『MISHIMA』のビデオを販売している、そんな当たり前のことに驚いた。

観たいなあって思ってパッケージ裏の値札を見てみると、当時経済的に余裕のなかった僕としては(今でも余裕はないけれど)値段が高くて購入するのを諦めた。今買えなくても当分ニューヨークにいることだし、金に余裕ができればそのときにでも買えばいいやと思ったし。


どうして僕が『MISHIMA』のビデオを販売しているのを見て驚き、その上観たいと思ったのかということからまず説明しないといけないと思う。日本、特に東京では、観ることができない映画はない、というほど大量の映画が上映されて映画鑑賞の環境は充分に整っている。それなのに『MISHIMA』は観ることが困難な映画で、日本未公開、未ビデオ化映画のひとつになっている。


勿論日本未公開作品は『MISHIMA』だけに限らないし、他の映画作品も日本未公開映画というのは存在している。その日本未公開という主な理由は、配給権もしくは著作権の問題だといっていい(勿論面白くないから日本未公開作品っていうのもあるけれど、それはまた別のはなし)。配給権や著作権等の問題は製作後数年経ってから解決されて日本での上映に至ることはあるけれど、『MISHIMA』はこのふたつの問題(配給権と著作権)に特に該当していない日本未公開作品として稀な作品になっている。


なぜ『MISHIMA』が日本未公開映画なのか?その説明はあとにして、まず『MISHIMA』の説明をしておこう。『MISHIMA』というタイトルからわかるように、世界的にも著名な小説家三島由紀夫の生涯を描いた85年製作の映画で、そのミシマを緒形拳が演じている。共演者に沢田研二など他に、三島由紀夫の絵を描いたことがある芸術家横尾忠則まで出演している豪華なキャスティングだ。


監督は『タクシードライバー』の脚本や『アメリカン・ジゴロ』を監督したポール・シュレイダー。脚本に相米慎二監督『ションベン・ライダー』のレオナルド・シュレイダーチエコ・シュレイダー(日本語脚本担当)。衣装デザインがコッポラの『ドラキュラ』でアカデミー衣装デザインを受賞した石岡瑛子。そして制作総指揮にコッポラジョージ・ルーカスが名を列ね、コッポラは日本で制作記者会見まで開いている!これだけ豪華なら三島文学好きや映画好きだけでなくても観たくなるし、配給会社も放っとくわけがないわけなんだけれど。


三島由紀夫といえば、ノーベル文学賞候補、戯曲家、俳優、ホモセクシャル、そして70年11月25日、東京市ヶ谷陸上自衛隊東部方面総監部にて演説のあと割腹自決。こんな三島由紀夫の生涯を描いた異色作は三島の遺族の要望で日本未公開、未ビデオ化になっているというのが一般的な理由だ。


そのため僕はずっと観れないものだと信じ込んでいた。でもよくよく考えると制作されたのは85年、20年前のことだ。お気付きの方もいると思うけど、現在ならインターネットでビデオなどを購入すれば日本未公開映画を観られるようになった。だから僕が『MISHIMA』のパッケージを見てもニューヨークで生活しはじめたころほどの新鮮さはなくなってしまった訳で、読者のみなさんは「それじゃあ『MISHIMA』を観たって自慢できないじゃないか!」って言うかもしれない。


確かにそうなんだけれど、ネットで『MISHIMA』のまた違う楽しみができている。amazon.comの『MISHIMA』のReviewsに監督ポール・シュレイダー本人がコメントを載せているのだ。それも星五つ(笑)。まあReviewsには誰が書いてもいい訳だけれど、彼の名を見たときは思わず笑ってしまった。それにしても『MISHIMA』のDVDが発売されたおかげで低価格になっていて、僕がはじめて『MISHIMA』のビデオを手にしたのがものすごくむかしのように感じてしまう…。

泉 知良 (Tomoyosi Izumi)

ニューヨークにて映画制作を学ぶ。現在、日本の映画制作会社にて勤務の傍ら、COOLで人気No.1のコラム「Film Freaks」を連載中。