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Place: New York

ecotopia

アートカテゴリ:  Photo

スマトラ沖の大津波やハリケーン「カトリーナ」、世界で相次ぐ大地震など近年頻発している自然災害は、私たちに自然が内包する絶対的な力と人間の無力さを再確認させた。

同時に圧倒的な自然の脅威は、これまで自然を支配下に置き、向こう見ずな搾取や破壊を続けてきた人間の営みを今一度見直すべきではないかという警告を私たちに投げかけた。


ニューヨーク国際写真センター「International Center of Photography (ICP)」で行われている写真展「ecotopia」は、そうした「危機的状況にある自然と人間の関係」に焦点を当て、およそ14カ国、40名のアーティストたちが世界の環境変化を独自の視点で捉え、写真や映像を駆使してそのメッセージを発信しようという試みだ。


Mary Mattingly The New Mobility of Home (The Nobility of Mobility), 2004 Chromogenic print © Mary Mattingly Courtesy Robert Mann Gallery

今回参加したアーティストの一人であるメアリー・マティングリー (Mary Mattingly) は、最新のデジタル技術を駆使して、近未来の人間の生活を写真の中に表現している。


彼女の代表作『The New Mobility House』では、奇妙な衣装を身にまとった人間が、ひとり荒野に立ちすくんでいる。体をすっぽりと覆う奇怪な衣服は「Mobility House (移動式住居)」と呼ばれ、それ一つで栄養補給や体温調節ができるという未来の「家」である。


ありとあらゆる技術を手に入れた未来の人間は、何かに依存するという必要性を無くし、遊牧民のような生活を送ることになる、と彼女はイメージする。見渡す限り何も無い荒野に、ぽつんと立つ異様に近代的な人間。その奇妙なコントラストは、自然から遠く離れて行きつつある私たち人間の心細さをかき立てると同時に、全く新しい方法で自然の中に還って行く、という人間の無限の可能性を感じさせる。


あるアーティストは、完璧に美しい自然の風景を切り取り、ただその絶対的な美しさによって、環境破壊とは何かを訴えようと試みる。また、あるアーティストは、とある牧場の日常生活をポートレイトにすることで、自然と人間の関係を問いかける。日々繰り返される家畜の屠殺と新しい生命の誕生、それを淡々とこなしていく人々の姿は、私たち人間がどのようにして生かされているのかという普遍的な疑問を突きつける。


写真展のテーマでもある『ecotopia』とは、「Ecological Utopia」に由来する造語で、「持続可能な、豊かで美しい世界」という意味の言葉である。しかし、そこにある写真のほとんどは、現実の豊かで美しい世界を映し出したものではない。それらは、脆さを内包した自然の姿であり、矛盾を孕んだ人間の営みだ。


しかし、どの写真も決して押し付けがましく「環境を守りましょう」などと訴えることをしない。その代わりに、ただその写真の前に立ち止まり、その風景の持つ意味について思考することを要求する。それはまるで、私たちに「地球の悲鳴が聞こえているだろうか?」と問い掛けているようだ。そして「自然は人間によって守られるものではなく、人間が自然に内包され生かされているのだ」という事実をそっと教えてくれる。


それらが描き出すものは、ただ夢に描くだけの安易な理想郷ではなく、私たちひとりひとりが自然や環境と対話し、思考することで生まれる、自由と希望に満ちた未来の世界なのだ。全ての写真を見終わった後、私たちは『ecotopia』の本当の意味を理解できるに違いない。



text: Yuriko KOBAYASHI