Interview

 
 
Place: New York

限りなく透明に近い俳優

Joe Odagiri
アートカテゴリ:  Film, Movie

ニューヨークで毎年7月に行われる北米最大の日本映画祭JAPAN CUTS!が、7月13日から23日までの11日間、ジャパン・ソサエティで開催された。オープニング作品『忍びの国』や、クロージング作品『この世界の片隅に』を含む話題の長編作品から、ドキュメンタリーや短編作品まで、全34本の日本映画が一堂に会し、ニューヨークの日本映画ファンを魅了した。

 

今年のJAPAN CUTS!でひと際注目を集めたのは、近年では安藤サクラさん、リリー・フランキー氏が受賞した、CUT ABOVE賞の今年の受賞者オダギリジョー氏だろう。現在日本映画界を牽引する俳優であるオダギリ氏は、実はアメリカには縁があり、その昔カリフォルニア州立大学フレズノ校に留学していた。「当時は高校を卒業したばかりで、今のような映画の知識もなく、単純に映画といえばハリウッドだろうという感覚でした」と、映画が好きで、映画監督を志し渡米した経緯をオダギリ氏は話す。

 

そうやって映画監督を志すものの、ひょんなことからアメリカで俳優の道に1歩踏み出すオダギリ氏。「大学の願書に記入するときに、チェックする項目を間違えたんですよ。演劇学専攻でしたが、マイナー(副専攻)を選ぶときに、監督を学べるマイナーはチェックしなかったんです。実はそれはマスメディア専攻の中にあったんですけど、マスメディアに興味があったわけではないので、そこは見ないじゃないですか」と彼は言う。運命に導かれたのか、オダギリ氏が俳優を目指すそもそものきっかけは間違いからだった。

 

© 2016 「オーバーフェンス」製作委員会

その後日本に帰国し、俳優として活動していくオダギリ氏。日本では『仮面ライダークウガ』でオダギリ氏の名は世間に知られ始めるようになったが、彼の俳優人生を変えたのは、アメリカでも劇場公開された、黒沢清監督の『アカルイミライ』への出演。恐怖映画の監督として世界中で高く評価されていた黒沢氏による、全編デジタル撮影という当時の新しい試みの中で、オダギリ氏は情緒不安定な主人公・仁村雄二を見事に演じ、私たちに強い印象を残した。

 

「『アカルイミライ』はやはり大きかったですね。初めての主演だったというのもありますが、黒沢監督と一緒にお仕事してみたかったですし、浅野忠信さんや藤竜也さんなど、憧れの俳優の方々が出演されていました。とにかく全力で挑んだ作品でしたね。そのせいか、黒沢監督には「あんまり演技しないで」と毎日のように言われていました」と、初主演作品への特別な意気込みがあったことを語るオダギリ氏。

 

© 2015 Foujita Production Committee. Eurowide Film Production

『アカルイミライ』以降、『血と骨』『メゾン・ド・ヒミコ』『ゆれる』『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン』『転々』など、数々の時代の話題作に出演し、それらがオダギリ氏の代表作にもなっている。JAPAN CUTS!は、そんな彼の出演作の中から近年の話題作、『泥の河』や『死の棘』などで世界的にも知られる小栗康平監督の『FOUJITA』と、『リンダリンダリンダ』や『苦役列車』などの個性派映画監督・山下敦弘氏による『オーバー・フェンス』をピックアップ。後者は、映画祭のセンターピース作品にもなっている。

 

「素直に小栗監督と一緒に仕事してみたかった。」独創的なビジョンと静寂で、スクリーンの中に芸術的かつ神秘的な次元を生み出す小栗氏。その彼の10年ぶりの新作『FOUJITA』へのオダギリ氏のシンプルな動機だ。オダギリ氏はこの映画で、フランスで最も有名な日本人画家・藤田嗣治をフランス語の台詞で挑んだ。「フランス語は全然喋れないので、会話と芝居の差もわかりません。それに小栗監督は、ワンシーンワンカットで撮ることも多いので、セリフが難しいシーンでも通してすべてやります。でもそういう役をやってしまうんですよね。それは自分でも困っています。」

 

さらに、『オーバー・フェンス』への出演の決め手をこう語る。「山下監督と映画を作ってみたかったというのもあるんですが、脚本が素晴らしかった。現代社会に漂う閉塞感を描いていて、そういう作品に携わりたいと思っていました。」

 

もう数年もすれば俳優としてのキャリアが20年を迎えるオダギリ氏。彼には主演作品も多いが、主演に限らず、『舟を編む』や『リアル〜完全なる首長竜の日〜』など、脇役での出演、キム・キドク監督の『悲夢』を始めとする海外の出演作もある。そこで珍しいのは、これだけ多くの映画やテレビ作品に出演しながら、全くと言っていいほど俳優として「色」が付いていないこと。そして彼が透明に近いからこそ 、私たちはその肉体と精神にさまざまな物語や感情を映し出すことができるのだ。

 

JAPAN CUTS!を訪れたオダギリジョー氏 © George Hirose

一体オダギリ氏はこれまでどのように作品作りへ向かい合ってきたのか。「昔から全然変わってないですね。俳優としてどんな存在になりたいかというビジョンも変わっていないですし。無難なことはやりたくないというか。いつも戦っていたいんですよ。」落ち着いた口調にもかかわらず、そこにどこか熱いものを感じさせるオダギリ氏。始まりこそは想定外ではあったが、表現者としての真摯な姿勢が、これまでの絶妙な軌跡を作り出している。

 

現在アメリカでは、全米芸術基金を無くす案が出されている。経済が最重要視される世の中では、このように芸術は常にターゲットになってしまう。芸術にたずさわる1人の人間としてオダギリ氏は今何を思うのか。「何かを作り続けたいと思っています。それを『芸術』と呼ぶかは別として、もの作りが好きなんですよ。俳優に限らず、もの作りはやり続けたいですし、大切にしたいと思っています」と、彼は一言ひと言を慎重に語った。俳優業に縛られず、クリエイティブな世界で生きたいと願うオダギリ氏。果たしてその願いは、彼の透明度をより高めるのだろうか、それとも見たこともない色を見せてくれるのだろうか。

 

 

テキスト&インタビュー by 岡本太陽

Photos of Joe Odagiri © George Hirose

 

JAPAN CUTS!ウェブサイト

Japan Societyウェブサイト

 

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