Interview

 
 
Place: New York

彼女の新境地

Naoko Ogigami
アートカテゴリ:  Film, Movie

今年の大統領就任式の翌日、女性蔑視の大統領に反対するウィメンズマーチがアメリカの各都市で行われた。このマーチで、移民やLGBTQ、子供から高齢者まで、さまざまな人々が手を取り合って、差別社会へ抗議した。ニューヨークのフィルム・ソサエティ・オブ・リンカーン・センターで、毎年夏に開催されるニューヨーク・アジア映画祭でも、今年は5本のLGBTQをテーマにした作品がラインナップに並び、世間の関心や願いを映画祭の1つの色として反映させていた。

 

その中の1つが、『かもめ食堂』や『めがね』で知られる荻上直子監督の5年ぶりの新作映画『彼らが本気で編むときは、』。母ヒロミ(ミムラ)と2人で暮らしている小学生5年生のトモ(柿原りんか)だが、ある日母が突然いなくなってしまう。しかもこれが初めてではない。そんなトモが向かった先は、叔父マキオ(桐谷健太)の元、そしてそこには人生で初めて出会うトランスジェンダーの女性リンコ(生田斗真)が暮らしていた。触れたことのない性にも、愛情にも戸惑うトモだが、優しく情深いリンコと過ごす日々の中で、不安の殻が少しずつ破れていく。

 

日本のメディアでは特に、LGBTQの人々は面白おかしいフィルターを通して映される傾向にあるが、この映画の中でリンコはその傾向に寄り添わず、地に足を付けた存在、また、どこか神秘的でもある存在として描かれる。それはきっとアメリカでの生活を体験している荻上監督独特の視点。かつては「癒し系」と呼ばれた監督が、周りと違うということへの差別や苦悩を辛辣に描きながら、さまざまな母と子のあり方を普遍的に映し出す。荻上監督の新境地は、ただただ心地いいだけじゃない。「本気」だ。そしてそこにはある種の可能性が微に煌めいている。

 

 

今年のニューヨーク・アジア映画祭を訪れた荻上直子監督に、新作『彼らが本気で編むときは』について話を聞いた。

 

 

「受け入れられない人も多いという現実がある」

 

 

「生田斗真さんがトランスジェンダー役」ということで興味を持って観に行く人も多いと思いますが、実際には「母と子」の物語が核になっています。

初めて生田さんにお会いしたときに、「あなたがトランスジェンダーの役をやるから面白い映画ということにはしたくない」ということを伝えました。ですから実は、スタート地点から「生田さんがトランスジェンダーを演じる」ということにはフォーカスしていなかったんです。最初から家族に焦点を当てた作品にするつもりでした。

 

なぜ「母と子」をテーマに選んだのですか?

これは新聞記事で読んだのですが、あるトランスジェンダーの女性が、14歳のときに、お母さんにおっぱいが欲しいと言ったんですって。そしたら、理解のあるそのお母さんは、ブラジャーにパッドを付けてフェイクおっぱいを作ってあげたそうです。すごく素敵な話だなと思って、そのお母さんにインタビューしに行きました。なので自然と母と子の話になりました。トランスジェンダーの方が性について悩んでいるお話にするつもりは初めからなく、もちろんそれは無視できない部分ですから、テーマの中に含まれてはいますが、それよりも彼らのお母さんとの関係性を映画で描きたいと思っていました。

 

日本ではLGBTQのタレントさんたちは常にメディアに出ていますが、実社会でのLGBTQの方々への目線にはまだ疑問が残ります。

柿原りんか

新聞記事のお母さんをインタビューするときに、その記事を書いた記者の方にまず連絡を取りました。その前日の新聞にLGBTの特集があって、女性から男性になったトランスジェンダーの方が、自分のアイデンティティがわからなくて、苦しくて、半分自殺のようにして死んでしまったという話がありました。それを読んだお母さんが、こんな悲しい話ばかりじゃないということを伝えたくて、おっぱいの話を投稿されたそうです。でも私が連絡を取った新聞記者の方によると、そのお母さんはとてもレアなケースで、どうしても受け入れられなかったり、理解はしようとはしていても、すべてを受け入れることはできない親が多いのが実情なのだとか。

 

実際に知り合いのおばさまとかに、こういう映画作ったんですよというと、「あ〜、今流行ってるのよね」と言われたりするんですよ。この映画は、東京や大阪のような都市では話題になっても、地方では映画館へのお客さんが入りが悪かったりします。だから、受け入れられない人も多いという現実があるので、その現実や差別を描いたシーンも映画の中に入れています。

 

生田さんの自然な仕草がとても印象的でした。プライベートでもなるべく役を意識されていたのでしょうか?

プライベートでも意識しながら過ごしてほしいとは言わなかったのですが、やってくれていたみたいですね。撮影が始まったときは、現場に入ってくるときの歩き方が男だったので、「スタッフ全員が、あなたのことをかわいいと思って、かわいく撮ってもらわなきゃいけないんだから、現場に入ってくるときから女で来い」と注意しました(笑)。でも自宅でもスカート履いたりして、彼なりに努力をしてくれていたみたいです。

 

リンコの恋人マキオを演じられた桐谷さんは、これまで熱い男を演じてこられていますが、今回の役はとても優しく、何でも受け入れるような役柄ですね。

桐谷健太

リンコさんをちゃんと守ってほしいので、まず生田さんよりも身長が高い方が理想的だなと思っていました。私も桐谷さんには「熱い男」というイメージを持っていましたが、私が好きな脚本家が書いた、桐谷さん出演の『天皇の料理番』というドラマを観ていたら、彼も30代も半ばになって、色気が出てきていたんですよ。彼が少し落ち着いた役をやってみたらどうなるんだろうという興味もあってキャスティングしました。

 

 

 

「アメリカでは身近にLGBTQの人たちとお友達になれる環境があった」


 

これまでは結構現実とは離れたところでの話が多かったですが、今回は実社会の問題点を含めた現実的な作品に仕上がっていますね。

これは全世界共通のことだと思いますが、とても閉塞感があって生きにくい世の中にはなっていますよね。昨年ぴあフィルフェスティバル(PFF)の審査員やらせていただきましたが、若い子たちが作る映画ってどれもこれも閉塞感があるんですよ。生きづらさが彼らの作品に表れていて、戸惑いを感じました。若い子たちが自由じゃないんです。

 

『彼らが本気で編むときは』は、葛藤が前面に出ていて、『かもめ食堂』や『めがね』とは全く異なる雰囲気です。「癒し系」を超えようとされていたそうですが、ご自身の作家としての葛藤と、今回の作品の物語にリンクしている部分はあるのでしょうか?

桐谷健太(左)柿原りんか(右)

この映画は、子供ができてからの初めての作品です。5年間うまくいかなくて、映画が作れなかったので、これは「荻上の第2章の始まり」と意気込んでいました。生田さんにも「監督前のめりでしたね」と言われてしまうくらい、すごく戦闘態勢だったみたいで。「これで失敗したら二度とオリジナル脚本で映画が作れなくなるかもしれない」という、日本映画界の現状を意識した危機感が私にはあったんです。だから絶対に失敗できないという気持ちの自分と、映画の内容は多少なりともつながる部分はあったんだろうと思います。

 

LGBTQの人たちの家族との関わり合いに目がいくようになったのは、やはりカリフォルニアやニューヨークでの生活があったからでしょうか?

荻上直子 © Taiyo Okamoto

それは絶対にあると思います。ロサンゼルスでもゲイの友人がたくさんいました。USC(南カリフォルニア大学)というすごく競争の激しい学校に通っていましたが、そこで優しくしてくれたのがゲイの子だったんです。自分のことを助けてくれたのがたまたまゲイの子たちだったり、私が住んでいたところの大家さんがトランスジェンダーの人だったり、アメリカでは身近にLGBTQの人たちとお友達になれる環境があったんですよ。けれど日本に帰ると彼らが日常からまったくいなくなるんです。そこにずっと違和感を抱えていたので、いつか彼らをテーマにした映画を作りたいと思っていました。

 

LGBTQを扱った映画は、結果的に悲劇として作られる場合が多いのですが、 この映画はそれに準ずるものにはなっていませんね。

ヨーロッパの方々はとても面白がってくれたので、今日はアメリカ人の反応を楽しみにしています。トランスジェンダーの女性の物語なので、悲しいものになるのかと思いきや、たくさんユーモアを入れているから、ヨーロッパの人たちはガッツンガッツン笑ってくれて、それがすごくうれしかったです。こっちでもそうやって笑ってくれたらいいなと思います。悲しい話ではないので、楽しんでほしいです。

 

 

テキスト&インタビュー by 岡本太陽

Production Photo Courtesy © 2017 Close-Knit Film Partners

 

 

 

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