Interview

 
 
Place: New York

ホドロフスキーに学ぶ

Alejandro Jodorowsky
アートカテゴリ:  Film, Movie

7月14日、運命の時が来た。伝説となった映画『エル・トポ』や『ホーリー・マウンテン』で知られる、カルト映画界の巨匠アレハンドロ・ホドロフスキーと、2人だけで話す機会が訪れたのだ。担当者に通され、アブコ・レコード(ABKCO Music & Records)ニューヨーク本社内の明るい光が差し込む1室に入ると、ホドロフスキーがそこに笑顔で立っていた。自叙伝的前作『リアリティのダンス』の続編で、その日にアメリカ公開を迎えた新作『エンドレス・ポエトリー』のプロモーションのため、彼はニューヨークを訪れていたのだ。

 

エンドレス・ポエトリー』は、若き日のホドロフスキーが幼少期を過ごしたチリのトコピヤから首都サンティアゴに向け旅立つところから始まる。『リアリティのダンス』は、少年アレハンドロ(イェレミアス・ハースコヴィッツ)と、抑圧的な父ハイメ(ブロンティス・ホドロフスキー)の関係に焦点を当てていたが、『エンドレス・ポエトリー』は、青年期を迎えたアレハンドロの心の旅を描いた物語。

 

20歳になったアレハンドロ(アダン・ホドロフスキー)は、医学部に入って欲しいという家族からの圧力から逃れるように、詩人になるという情熱を胸に実家を飛び出した。そして彼は、ニカノール・パラ(フェリペ・リオス)、ステジャ・ディアス・ヴァリン(パメラ・フローレス)、エンリケ・リン(レアンドロ・ターブ)という、さまざまな芸術家との出会いに刺激を受け、詩、人形作り、アナーキズム、演劇に命を燃やす。そうしながらアレハンドロは、真(まこと)の己を探求し、生き方を肯定していく。

 

エンドレス・ポエトリー』は、個人的な映画。しかし青年アレハンドロの心の旅が導き出すのは普遍性。国や人種、年齢、や性別、また社会的地位によって、私たちは自分たち自身を分け隔て、カテゴリーの中へと押し込み続けている。その結果生まれるのは、さまざまな衝突や摩擦。それを解きほぐすように、ホドロフスキーは映画やコミック、タロットを自在に操り、人類の可能性を広げながら、美や、真実、優しさを見出すことに人生を捧げてきた。そして、その88歳の生きる伝説が私の目の前に座り、優しく言葉を紡いだ。彼が私自身の中に見せてくれたのは、際限のない宇宙だった。

 

アレハンドロ・ホドロフスキー © Taiyo Okamoto

 

 

「君は川のように自由に流れている」

 

 

初めまして。岡本太陽といいます。

タイヨウ…

 

日本人の名前です。

日本。日本のどこ出身なんだい?

 

九州です。九州はご存知ですか?日本の南西に島があるのですが…

イェレミアス・ハースコヴィッツ

あぁ!わかるよ。僕には日本人の禅僧・高田慧穣(たかた えじょう)という師がいてね。日本には4回足を運んでいるよ。日本が大好きなんだ。日本の古い歴史、公案、俳句、禅、禅僧の道元なんかに興味があってね。君よりも日本には詳しいかもしれないよ。

 

そうかもしれませんね!

僕は随分長いこと俳句を勉強していて、武士のことも学んだし、空手も習っていた。いろんな専門家にもあったしね。とにかく日本が好きで好きでしょうがないんだ。

 

それと同時に、日本が戦時中に残酷なことをしたことも知っている。酷いことだ。けれど日本には面白い思想がある。個人よりも集団や全体を重んじているね。それに、武士には必ず師範がいて、師範の言うことは絶対だ。議論の余地はない。とても興味深い文明だと思っているよ。

 

禅の思想があなたの人生や映画に影響をしているそうですね。

アメリカでとても人気の高い『エル・トポ』は、禅の思想が特に影響している。僕が演じた主人公エル・トポは無法者だが、禅の僧侶でもある。僕は禅の思想には深く影響を受けていてね。もう日本式のやり方はできないけれど、禅の感覚は僕の中で生きているよ。

 

「リアリティのダンス」は、老人になった明哲なホドロフスキーが、少年期のホドロフスキーをなだめているような印象を受けました。ところが「エンドレス・ポエトリー」では、老人のホドロフスキーが、青年のホドロフスキーを摩訶不思議な世界に導いている印象を受けます。この変化についてお話ししていただけますか?

イェレミアス・ハースコヴィッツとアレハンドロ・ホドロフスキー

人生とはそういうものでね。子供は皆、性に関する心配事がない。そう思わないかい?まずそんなこと考えもしないからね。でも思春期になると違う。僕の思春期は、自分が同性愛者かどうかが大きなテーマだった。父にずっとそれを問い続けられていたからね。彼は同性愛に恐れを抱く共産主義者で、スターリン主義者だった。「お前はホモになったら、金も人生もすべて失うんだぞ!」と言っていた。思春期で敏感になっていた僕は、罪悪感ばかり抱えていたよ。だから自分自身を探さなくてはいけなかった。

 

その思春期の僕が描かれているのが、今回の『エンドレス・ポエトリー』という映画。テーマは己になること。誰かに望まれる自分になるのではなく、自分がなりたい自分になること。僕は、父や母が望んでいる僕にはなりたくなかった。自分がなりたいと思う自分になりたかったし、なりたい自分が何なのかを知りたかった。自分がなりたいと思ったものなら何だっていい。僕が同性愛者なら、素直に同性愛者になるだろうし、同性愛者でなければ、同性愛者でないというだけ。ただ己になるだけだ。そうして己を見つけ出す。物語全体を通して、主人公は自分自身を探し続ける。

 

彫刻家のカルメンがアレハンドロの従兄弟リカルドに「仮面を脱ぎなさい。勇気を持って!」と言うように、“本当の自分を探す”ことがこの『エンドレス・ポエトリー』のテーマになっています。あなたにとって“本当の自分を探す”とはどういう意味あるのでしょう?

アダン・ホドロフスキー

僕は高田慧穣に師事していたとき、彼に公案を授かった。公案とは、精神をより広げるために、師匠が弟子に与える難しく神聖な問いのこと。その問いには始まりも終わりもない。だから答えがわからなかった。『神』と答えるのだろうか?それとも『無』と?そしてついに僕は自分の知性に言った、「死ね!」と。死ぬんだ、識者だからこそ、心配してはいけない。言葉の向こう側を目指せ。真(まこと)の己にたどり着くんだ。言葉に惑わされず、考える。考えて自分を受け止めるんだ、感情も、性も、創造性も、行動も、すべて。自分をしっかり受け止めるんだ!そして自分になれ!自分になるんだ!それが真のエゴというものだ。

 

では、真ではないエゴとは何か。それは自己概念だ。自己概念はまず歴史から作られる。例えば君の場合は、生まれ育った日本文化だね。それに加え、今生きている社会や家庭も自己概念の形成に大きな影響を及ぼす。そうやって作られた自己概念という檻の中に自分を閉じ込めてしまうんだ。しかし君は日本人でも、同性愛者でも、何でもない。君はこれと決められるものではないからだ。ただ素直に己なのだ。今日君は何かかもしれない。でも明日は違う自分になれる。君は自由だ。ただ自分であるというだけ。君は川のように自由に流れている。君に決まった形なんかない。だから「僕はこの国の人間だ。僕は何歳だ。だからあれもこれもできない」なんて言うのはやめよう。限界などないのだから。

 

自分は透明、もしくはすべての色を持っているかのようですね。

アレハンドロ・ホドロフスキー © Taiyo Okamoto

そう!すべての色を持つということは多様であるということ。そしてすべての色を合わせると1つになる。すべては1つ。そのことを覚えていてほしい。すべては1つだよ。その合わさった1つの中に、僕らは多様なものとして存在している。君の中にあるのは1つだけ、そしてその中にすべての宇宙がある。それがもし君の中にないのなら、どこにもない。僕らは皆、多様であり、1つなのだということをわかってほしい。

 

 

 

「君自身の中に存在するものは、

他のみんなの中にも存在している」

 

 

映画で描かれるように、あなたは人生においてたくさんの芸術家に出会っていますね。芸術はあなたにとってどんな扉を開いてくれましたか?

全部だよ。もし僕が芸術に出会っていなかったら、もう自殺していただろうね。君はこの世にあるものはすべて真実だと思っているかもしれないれど、実はそうではない。僕は自分で初めて詩を書いたとき、人生が変わった。だから詩人になりたいと思ったし、詩人として自由になりたかった。映画の中でも描かれるけれど、その詩のおかげで、友達も、芸術家も、真の世界も見つけた。それから1年が経って、僕は本当の自分を見つけたんだ。

 

ここで今僕が言っていることは、実際に僕が体験したこと。「何かを信じてなるものか。何でもやってみる。実験するのみだ」と言っていたくらいだからね。僕は自分が同性愛者であるかどうかも知りたかった。だから同性愛者に会ったとき、「犯してくれ」と頼んだんだ。そして彼が僕のお尻にペニスを挿れようとしたとき、「あーーー!」と取り乱してしまって。僕にはできなかったよ。でも経験してみたかった。初めから決めつけず、自分がそれに興奮するかどうか知りたかった。知るための実験だった。試してもいないのに、男性に対して性的欲求がないなんて誰がわかるんだい?

 

では、「悟り」とは何か?それには瞑想が必要だ。僕は高田慧穣と7年間一緒に瞑想をしてね。7年もの間、僕と彼は毎日30分だけ眠るという生活を送っていたよ。またあるときには、他には何もせず瞑想だけに興じるときもあった。10分間食事の時間があって、10分間トイレに行く時間がある。それ以外はずっと瞑想して、30分だけ眠る。そうやって7年間、瞑想しながら暮らしたよ。狂ってしまいそうだった。本当にね。

 

本当は今話しているようなことを考えたいんだよ。こういう話はあまりする機会がないんだ。だいたいは映画のことを話しているからね。でも僕らの現実は「終わらない詩」だ。だから、詩とは何かを考える必要がある。そして芸術とは何か?僕はこう思う。芸術とは、自分の中に宿る、美しさや、真実や、優しさを発見できるものだと。自分が思っていたよりも自分はすごい人間だった、などというような発見ではない。人に見せたい人類の宝のようなものを見つけることだ。それはみんなが持っているものだから。君自身の中に存在するものは、他のみんなの中にも存在している。ただ彼らはそのことを知らないだけ。「僕は自分自身を探求した。大事なのはそれだ」と人に伝えたくなるだろう。大事なのは自分の中を見つめること。そして自分を見つけて、自分になるんだ。

 

はい。そして魔術師にも、ですね。

アダン・ホドロフスキーとアレハンドロ・ホドロフスキー

その通り。タロットの世界には魔法が存在する。僕は50年間タロットをやっているけれど、その間にたくさんの奇跡を見てきたよ。ある女性が恋人になる男性を探していたときに、彼女は「L’Impératrice」を引いたよ。女帝のカードだね。そこで僕はこう言った。「女帝を見つけることができたなら、男性もきっと現れるだろう」と。そして僕は心の中で「皇帝のカードを選べ」と祈っていた。すると彼女は本当に「皇帝」を選んだんだ。祈りが届いたのか、彼女は本当に皇帝のカードを選んだ。そんなことがたくさんあったよ。

 

他の例では、ある人は「La Jugement(審判)」という20番目のカードを選ばなくてはいけなかった。そのカードは家族などの意味があってね。彼女はそれを望んでいないのはわかっていたけれど、「20番目のカードを探して僕に見せなさい」と伝えた。彼女が引いたカードは見せてくれないだろうとは思っていたけれど、結局20番目のカードを見せてくれる前に、他の20枚のカードが何なのかわかってね。こんな不思議なことも偶然に起こってしまう。だからタロットは現実の世界と繋がっていると気がついたよ。君は現実と繋がっているし、君の考えは現実の中で毎分のように変わっている。

 

事故に遭った人は、事故に遭うのを何年も待っていたのかもしれない。自分自身が現実を刺激して、それに対して現実は答えを出す。もし君に現実というものの概念があるとするなら、現実は君が抱いているビジョンを基に形作られていく。そしてそれを魔法というんだ。

 

 

「人類は今、危機に陥っている。

果たして人類は変われるか、それとも滅びゆくか」

 

 

人類には戦争や環境破壊をしてきた歴史があります。しかし、そのことを考えるといつもこんな疑問にぶち当たります。人間がこれらをやっているのか?地球の意識がさせているのか?それとも僕らが知る由もない何かが?明らかな答えはないと思いますが、あなたの考えは?

ブロンティス・ホドロフスキー(左), アレハンドロ・ホドロフスキー(中) 、アダン・ホドロフスキー(右)

人類は森羅万象によって作られたに違いない。森羅万象には目的がある。それは意識を持つということ。意識だよ。そう、僕らが持つ意識を森羅万象は欲している。例えば、石ころも意識。石も情報だからね。石ころを始めとする、この世に存在する物質の中に人間は存在している、もしくは物質から人間は生まれているとも言える。人間は動物でもある。進化過程の動物だね。完全ではない。人類はかつて猿であり、猿人だった。そして今まさに進化を遂げようとしている。現在の人類になるために、人類は合理的な思考が必要だった。でもそれも、もう必要ない。合理的思考はもう古いのだ。今の時代にはそぐわない。時代錯誤だ。今重要なのは、新しい生き方を生み出すために、合理性から解放され、感情や、性や、行動を受け止める思考だ。

 

アレハンドロ・ホドロフスキー © Taiyo Okamoto

それを始めるには丁度良いタイミングだよ。人類は今、危機に陥っているからね。果たして人類は変われるか、それとも滅びゆくか。もし人類が変われなければ、森羅万象が僕らを滅ぼしてしまうだろう。そこからまた森羅万象の新しい経験が始まるだろうが。さあ、どうなるだろうね。森羅万象はもしかしたら、人類ではない他のもので実験を始めるかもしれないしね。ただ、今がとても良い時期であることは間違いない。その証拠が政治の終わり。政治はもう終わりを迎えようとしている。もう誰も信用していないからね。今の大統領はクレイジーだ。彼は核爆弾をポケットの入れた子供。本当に、本当に、本当に危険だ。冗談抜きでね!また人類は、石油を掘り出すために地球を破壊している。僕らは自分たちの手でこの星を破壊しているんだ!恐ろしいことだ。

 

しかし、僕や君、そして数え切れないほどの人たちがそのことにもう気づいている。新しく生を受けた赤ちゃんはとても賢いしね。僕たちに世界は変えられない。僕らが変えられるのは自分自身だけ。そして自分が変われば、人も変わっていく。そうやって変化の波紋が広がることで大きな変化につながる。僕らならできる。若い人たちにならきっと。そして僕のような老人にも!

 

 

テキスト&インタビュー by 岡本太陽

Production photos courtesy of ABKCO Films

 

『エンドレス・ポエトリー』は、2017年11月18日日本公開予定

 

 

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