Interview

 
 
Place: New York

鮮度とプライド

Denden
アートカテゴリ:  Film, Movie

現在、日本の映画やテレビドラマに欠かせない俳優でんでんが7月15日、映画を愛し、それに溺れる人たちを描いた内田英治監督の『下衆の愛』を引っさげて、ニューヨークで開催中の「第10回JAPAN CUTS!〜ジャパン・カッツ!〜」を訪れた。2011年の園子温監督の話題作『冷たい熱帯魚』で一躍脚光を浴びた日本の名脇役。二面性を持つ連続殺人鬼に扮し凄まじい演技を見せた彼は、映画公開翌年の第35回日本アカデミー賞では最優秀助演男優賞に輝いている。『冷たい熱帯魚』以降、すでに30本を超える映画に出演しているように、でんでんは60歳を超えてからさらなる飛躍を遂げた。朗らかな人柄の中に秘められた役者としてのプライドは、これから彼をどんな変化へと導いてくれるのだろうか。

 

 

『下衆の愛』上映のため第10回ジャパン・カッツ!を訪れたでんでんが、これまでの軌跡を語った。


 

渥美清さんに憧れて

 

僕は福岡県の中間市というところで生まれました。高倉健さんもそこのご出身なんですよ。小学生のときなんかは、冬場は友達と相撲をやって暖を取っていましたね。土俵も自分たちで作って、冬だから正月のしめ飾りを腰に巻いて力士に見立てて遊んでいました。

 

またちょうど小学生のころ、クレイジーキャッツの植木等さんが好きで、テレビを見ながらテレビの中の人になりたいと思っていたんですよ。そして僕が高校生のときに、渥美清さんの『泣いてたまるか』というテレビ番組がありまして、それを観たのがきっかけで渥美清さんのような役者になりたいと思うようになりました。

 

『下衆の愛』より © Third Window Films

渥美さんにはそこはかとなく内面からじわっと来る可笑しさがあるんですよ。 それは小学生のときに好きだったクレイジーキャッツのお笑いとはまったく違うものでした。不幸な生い立ちのわりには人を笑わせたい人が、お笑いをやっている人の中には意外と多くて、そういう人たちに憧れていた気がします。

 

そうやって渥美清さんを目指して上京することになりますが、周りには特に反対はされませんでした。叔父に「義博(本名)、テレビというものは出るものじゃなくて、観るものだ」と言われましたけど。おそらく引き止めるためにそう言ったんだと思います。

 

もともと僕は言い出したら聞かないタイプだったから、両親は諦めていたのかもしれませんね。それに僕は若いころから自分のことは自分でやっていたんですよ。本屋でアルバイトをしながら高校に行っていましたしね。僕は役者になると決めていたので、高校卒業が近づいても就職活動はしていませんでしたが、親は何も言えなかったんでしょう。

 

そうして高校卒業後すぐに、僕は弟子入りしようと思い、渥美さんのお住まいを訪ねました。残念ながら渥美さんはそのとき不在だったので、いったん福岡に帰ったんですよ。何をするにも東京に住まいがないと大変ですからね。そしてまた一週間後に東京に出直しまして、マルイという会社に中途採用されました。

 

『下衆の愛』より © Third Window Films

サラリーマン生活を4年ほどやったあとは、役者を目指しながらアルバイトをしたり、警備会社で働いたりして生計を立てていました。そして1980年に「お笑いスター誕生」という素人でも出られるテレビ番組に出たんですよ。そうしたら8週連続勝ち抜いて、しばらくそこの製作会社に預かっていただくことになりました。役者としてのお仕事もそのころからポツポツ入るようになってきたんです。

 

 

恩人との出会い

 

森田芳光監督の『の・ようなもの』で初めて役者として映画というものを経験しました。そこで 普段通りやればいいだろうと思っていたんですよ。そしたら普段通り話せず苦労しました。共演者の尾藤イサオさんにはそのとき大変助けていただいてとても感謝しています。

 

映画出演が増えたのは、黒岩清監督の1997年の映画『CURE』以降でしょうか。当時『CURE』がずっと語り継がれる映画になるとは誰も思っていなかったので、あの映画の影響力は意外でした。

 

『下衆の愛』より © Third Window Films

ただやはり僕にとっての大きな節目は、園子温監督の2011年の映画『冷たい熱帯魚』です。今まで出演した作品の中で責任も一番大きかったですから。もちろん他にも面白い作品はたくさんありましたが、責任の度合いが違います。責任や負荷は、期待度や目立ち方にも影響してくるんですよ。この仕事はやはり目立ったほうがいいですからね。出番が多いに越したことはない。

 

日本アカデミー賞・最優秀助演男優賞を受賞した『冷たい熱帯魚』以降は、うれしいことにより多くの映画にたずさわることができています。今まで生きてきた中で、僕には何人か恩人と呼べる人がいますが、園子温監督も僕の恩人です。『冷たい熱帯魚』はそんな恩人と呼べる人から生まれた作品なんですよ。

 

あの映画は恐ろしい出来事を描いていますが、恐ろしさだけではなく、ユーモアもありましたよね。気味悪さの中にブラックジョークが散りばめられた映画でしたから、あの映画を園さんと作り上げる過程はものすごく楽しかったです。

 

『下衆の愛』より © Third Window Films

僕は、緒形拳さんが出演されていた『復讐するは我にあり』が好きで、いつか緒方さんが演じた榎津巌のような役をやってみたいという願望があったんですよ。しかし実際に『冷たい熱帯魚』の村田幸雄を演じるとなると、自分の想像だけでは体現は不可能だと思いました。だからあの役が作られた背景にはやはりモデルがいます。それを言うと、「お前はそういう人間と友達だったのか?」と思われてしまうけれど(笑)

 

このシーンはあの人、あのシーンはこの人という感じで、何人もの人が村田の中に存在しています。だから演じていてとても面白かったですね。村田という1つの役の中に、僕が織り込みたかったいくつもの性格をぶち込むことができたんですから。

 

 

役者としてのプライド

 

『下衆の愛』より © Third Window Films

園監督のようにダメの出し方がシンプルな人が僕は好きでしてね。「ここちょっと砕けてください」とか「ちょっと怖くいきましょうか」とか、フレーズが短いんです。僕がそれに答える形でリハーサルのときにコミュニケーションをしています。『下衆の愛』の内田英治監督もダメの出し方がシンプルで好きでした。

 

僕が『下衆の愛』に魅力を感じたのは、夢で終わってしまうとわかっているけれど、突き進まなければ自分を支えられない人間たちがいるところです。そこには映画を作っている人たちだけではなく、誰しもが共感できますからね。そういうものがこの映画で見せられればと思っていました。

 

彼らは端から見たら馬鹿にも見えてしまうと思います。けれどその馬鹿さを前面に出すと、ただ馬鹿な奴を演じているということになる。そこで馬鹿を演じるのではなく、結果的に彼らが馬鹿に見えたらと思っていました。だからこそ芝居は難しい。

 

『下衆の愛』は日本が舞台で日本の俳優を使っていますが、実はイギリスが製作と配給をやっています。日本の物語を外国経由で発表できるのはうれしいですね。「福岡のでんでん」や「日本のでんでん」でもなく、「世界のでんでん」に近づけますからね(笑)少しでもでんでんという俳優が世界に発信できますし、1人でも多くの人に僕のことを知ってもらえるのはとてもありがたいです。

 

「世界の」というと、先日他界された世界的巨匠アッバス・キアロスタミ監督とも『ライク・サムワン・イン・ラブ』という映画でお仕事したことがありました。監督はとても2枚目のジェントルマンでしたね。初めてお会いしたときにじっと僕のことを見ていたのを覚えています。でもそうやってずっと見られていると落ち着きをなくすでしょ。

 

またそのとき何度か芝居をやってほしいと言われたから、1度芝居をしてみたんですね。でも2回目はやらせないでくれと言いました。会話しているうちにだいたい僕がどういう演技をするのかわかりますからね。でも最終的にはやらされたんですよね(笑)

 

『下衆の愛』より © Third Window Films

僕が面白いと思ったのは、「最高だ!」と1度オーケーをもらったシーンを撮影し直したことでした。シーンの撮影が終わった数日後に、もう1度撮りたいと連絡があったんですよ。1度撮ったものを再度撮るので、前にやったものをなぞるようにして演じてはいけませんよね。同じシーンで違う男を自分が演じられるかどうかという自分への挑戦を楽しみました。

 

どの役も自分や監督との戦いなんですよ。だからそれに付き合ってくれる演出家が僕は好きです。演技はそういうぶつかり合いの中から生まれてくるものだと思うから。

 

 

初心忘るべからず

 

現在「脇役のでんでん」と言われたりしていますが、 助演という立場はやはり弾けることが可能だと思いますね。主役は最初から最後まで出ていますから、あまり弾けっぱなしだと作品がうるさくなってしまいます。けれど僕のように要所要所に出ている場合は、弾けることで主役が引き立つんですよ。

 

そうやって弾けるために、脇役に必要なのはリセットする力。役者として癖や垢が付いていくのは怖いですからね。けれどそういった水垢のようなものは知らず知らずのうちに付いてくるんですよ。そうなると変化しようにも、変化が難しくなってきます。

 

だからリセットできることが大事。これは危ないぞと気づいたら、垢を取る努力をして、うまくリセットする。脇役はそれには対応しやすいと思うけれど、主役は垢が付いちゃうとより大変だよね。

 

第10回JAPAN CUTS!〜ジャパン・カッツ!〜を訪れたでんでん

今は少しずつ楽しい仕事が増えてきています。そしてこれからも、もっともっと面白い仕事にも巡り会えたらうれしですね。そのためにはさっきも言ったようにやっぱりリセットしないといけない。戻る力が肝心です。要するに鮮度の問題ですね。演技力よりも、初心忘るべからずという言葉があるように、鮮度を保つことが大切。

 

初めて台本をいただいたときの喜びは忘れちゃいけない。長年同じことをやっていると、ついついわがままになるというか、慣れてしまいますからね。どんどん身の程知らずになってくる。反省しなきゃいけないことばかりですよ。そう言いつつ反省できない自分もいるんですけどね(笑)

 

 

テキスト、インタビュー&ポートレイト写真 by 岡本太陽

© Third Window Films

 

『下衆の愛』オフィシャルサイト

「第10回JAPAN CUTS!〜ジャパン・カッツ!〜」オフィシャルサイト