Interview

 
 
Place: New York

女優というアイドル

Atsuko Maeda
アートカテゴリ:  Film, Movie

彼女の目の輝きはどこから来ているのだろうか?映画やテレビ、舞台などに出演し、現在女優として飛躍を続けている前田敦子。『もらとりあむタマ子』や『さよなら歌舞伎町』などに出演し、特に映画界でその存在感を発揮している彼女が、現在ニューヨークのジャパン・ソサエティで開催中の「第10回JAPAN CUTS!〜ジャパン・カッツ!」を訪れた。この北米最大の日本映画祭では、彼女が出演した『モヒカン故郷に帰る』がオープニング作品に選ばれ、映画と彼女の登場が真夏のニューヨークを華々しく飾った。

 

『モヒカン故郷に帰る』は、『キツツキと雨』や『横道世之介』などの秀作を連発している沖田修一が監督と脚本を務め、モヒカン頭の売れないバンドマンの主人公・田村永吉に松田龍平を迎えたホームドラマ。結婚の報告をするため、7年ぶりに故郷・戸鼻島(とびじま)に帰郷する永吉。その両親役を演技派の柄本明ともたいまさこが、そして前田は主人公の妊娠中の恋人・由佳に扮している。父と上手くコミュニケーションの取れない永吉とは反対に、島の空気にすんなり馴染んでしまう由佳の大らかさを前田は鋭い感性で体現した。

 

2012年8月末までAKB48として活動していた前田のように、アイドルから転身した俳優や歌手の中には、新しいキャリアへの志の高さから、アイドル時の過去から一刻も早く遠ざかりたいと願う人も少なくないはず。しかし前田は違う。彼女は過去を受け止め、それを自らのアイデンティティとして胸に温めているのだ。それはまるで第2の人生などなく、すべては1つの人生の中の出来事であると心得ているかのよう。だからこそきっと彼女の女優としての道の上には、絶え間ないアイドルの輝きが続いているのだろう。

 

 

第10回ジャパン・カッツ!のオープニング作品上映前に、前田敦子が『モヒカン故郷に帰る』や現在の自分自身について語った。

 

 

【個性的な映画作家さんたちと出会えて本当に光栄】

 

由佳はいわゆるよそ者でありながら、すんなり島の人とも馴染めていますよね。彼女の魅力はどのようなところ?

©2016 「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

初めて相手方のご両親に挨拶となると、たいてい気を遣ってしまいますよね。由佳も最初は気を遣っていますけど、やっぱり自分が大好きな人の家族じゃないですか。だから当然家族も大好きという構え方が素敵だなと思っていました。

 

 

この映画では家族の死が描かれていますが、沖田監督はそういった絶望的になりうる状況をわりとさらっと演出されますね。

沖田監督はそのときのものを受け入れて楽しみましょうという方なんですね。そしてどんなところにも自然といられる方です。きっととても心の広い方だと思います。分け隔てなく人ともお付き合いされますし、本当に温かい方なんですよ。事、物、人すべてを受け入れて「大丈夫ですよ」とおっしゃってくれます。

 

この映画では、沖田監督に台本は気にしなくてもいいと言われたそうですね。

沖田監督は俳優にとてもやさしいので、俳優から出てくるものを一番の観客になって楽しんでくれます。だからこそ現場で俳優が楽しく演技ができると思うんです。私も監督が笑ってくれることが最高にうれしかったですし、俳優と監督の関係が相思相愛と呼べる現場でした。

 

この映画では松田さん、柄本さん、もたいさんというわりとクセのある日本の役者さんたちと共演されていますが、現場での振る舞い方や役への取り組み方など刺激を受けたことはありましたか?

©2016 『モヒカン故郷に帰る』製作委員会

自分のエゴを見せる人は誰もいなくて、その場の空気を楽しみながらありのままに演じる素敵な方々でした。私たちはただ自然と広島に集まって、自然と毎日撮影をしていた、という感覚です。変な懸念もなく前向きで、そのとき生まれたものを楽しもうとされているみなさんの姿勢に感銘を受けました。

 

今回の沖田監督もそうですが、山下敦弘監督や黒沢清監督など、前田さんは映画好きが好きな映画作家とお仕事をご一緒されているので、結果的に映画好きが観る映画に出演されていますね。

私は結構作家性の強い作品が好きなので、出演作には私の趣味も反映されていると思います。個性的な映画監督さんたちと出会えて本当に光栄です。

 

 

【アイドルで始まった人たちはずっと夢を与え続ける何かを持っている】

 

現在、映画、ドラマ、舞台または歌を通してご自身の可能性を開拓中ですね。

私は案外「何とかなる」と思って生きているタイプなので、実はあまり人生設計はしていないんです。だからこそ客観的に自分のことが見られているのかもしれません。もちろん尻込みしてしまうこともたくさんありますけど。

 

それに、出会いに恵まれていると感じることもたくさんあります。「自分が若いときはこうだったんだから、あっちゃんもっとこういうことしなさい」とアドバイスをくれるすごい先輩たちが周りにたくさんいるので、焦って何かをすることはあまりないかなと思っています。

 

今は何かに押されてやるというよりは、自分のペースでやりたいことを決めていますか?

慌ただしさはAKB時代に経験しました。今はそのときにやりたいことをやるというスタンスで生きています。それが今の人生を楽しむ素(もと)になっているかもしれません。

 

自分の意見もあるけれど、人の意見に耳を傾けるようにされているそうですね。人の意見を聞くことの大切さとは?

©2016 『モヒカン故郷に帰る』製作委員会

AKBの1番最初の頃に、怒ってくれる人のありがたさを知りました。自分だけだと見えないことって山ほどあると思いますし、周りが見えなくなるという経験は誰にでもあることだと思います。お仕事以外のことも必ず自分に関わってきますよね。だから道から逸れてしまうこともきっとあるはずです。でもそこでアドバイスしてくれる人がいたからこそ今の私があると思っています。

 

また自分が悩んでいるときに、人の意見を聞いてすっきりした経験もたくさんあります。そうやって誰かの話を聞いて落ち着くこともあるので、人の意見を聞くことは大切にしています。

 

もう10年以上芸能の世界でお仕事されていますが、千葉で普通の女の子だった方が、今はこうやって自分が出演した映画をニューヨークに届けに来る立場にありますね。

©2016 『モヒカン故郷に帰る』製作委員会

人は夢を持てば少しずつでも叶っていくものだと思っています。だからもし夢があれば、それをずっと持ち続けることが大事だなって。諦めるのは簡単ですよね。止めることはいくらでもできるけれど、少しずつ何かをやり続けるという積み重ねが、夢につながっていくと信じています。

 

「アイドルとして始まったらアイドルとして終わる」ということをテレビでおっしゃられていましたが、女優である活動に焦点を当てられている今、この気づきに至ったきっかけは?

アイドルを経て役者をやられている先輩方は実は結構たくさんいると気づいたんですよ。

 

小泉今日子さんもずっとキョンキョンですよね。

第10回JAPAN CUTS!〜ジャパン・カッツ!〜 を訪れた前田敦子

そうなんですよ。肩書きは変わってもみんな変わらないんですよね。小泉今日子さんがアイドルとして活動されていたころに、小泉さんを応援されていた方々は、昔も今も変わらず「キョンキョン!」って親しみを込めて応援されています。「キョンキョン大好き」と言う、私よりもずっと年上の方々もこの業界にはたくさんいらっしゃるんですよ。そうやって彼らに変わらず夢を与え続けられるなんて、なんて素晴らしいんだと思って。

 

元キャンディーズの伊藤蘭さんと舞台で2度親子として共演させていただいたんですね。私は伊藤さんのアイドル時代を知らないけれど、そんな私が見ても、伊藤さんはアイドルのように可愛らしくて輝いていらっしゃいます。だからアイドルで始まった人たちはずっと夢を与え続ける何かを持っているんだ、自分もそういうところからお仕事を始められたのはラッキーだったと、先輩たちの姿を見ていて自分のことを前向きに考えることができるようになりました。

 

これから先が楽しみですね。

「かわいい」って言われたいですね、ずっと。

 

 

テキスト&インタビュー by 岡本太陽

ポートレイト写真 by Ayumi Sakamoto

©2016 「モヒカン故郷に帰る」製作委員会

 

『モヒカン故郷に帰る』オフィシャルサイト

「第10回JAPAN CUTS!〜ジャパン・カッツ!〜」オフィシャルサイト