Interview

 
 
Place: New York

壁の向こうの世界

Lee Byung-hun
アートカテゴリ:  Film, Movie

『インサイダーズ/内部者たち』より

彼はこれから一体何を見せてくれるのか?韓流四天王と呼ばれていた頃が遠い昔のことのように感じられるほど、特に『甘い人生』以降の俳優イ・ビョンホンの活躍は目を見張るものがあった。国際派俳優として歩み出した彼は、2009年には『G.I.ジョー』でハリウッドデビューを果たし、続けて『RED リターンズ』や『ターミネーター:新起動/ジェニシス』にも出演。現在韓国とハリウッドを行き来しながら快進撃を続ける彼は、第15回ニューヨーク・アジア映画祭で7月5日、ニューヨークプレミアを迎えた主演作『インサイダーズ/内部者たち』の上映前に、アジア映画の発展に貢献した功績を称えられスターアジア賞を受賞した。

 

第88回アカデミー賞では韓国人俳優として初めてプレゼンターを務め、先日映画芸術科学アカデミーが新な会員候補として招待状を送った683人のうちの1人にも顔を並べたイ・ビョンホン。ジャッキー・チェンや渡辺謙に続くように、彼もまた世界的に認知度の高いアジア系俳優への階段を着実に上っている。今年9月には、デンゼル・ワシントン、クリス・プラット、イーサン・ホークなどと共演した『七人の侍』と『荒野の七人』のリメイクであるハリウッド映画『マグニフィセント・セブン』の公開も控えている。ハリウッドの多様化が求められている今日、アクションもこなし高い演技力も備えたイ・ビョンホンなら、ハリウッドで活躍するアジア系俳優の前に大きく立ちはだかる壁を越え、その向こう側にある世界を見せてくれるかもしれない。

 

 

スターアジア賞授賞式前に、イ・ビョンホンが俳優としてのキャリアや経験について語った。

 

 

なかなか脚光が浴びられない役を演じる俳優の気持ちが理解できるようになりました

 

近年は韓国とハリウッドを行き来しながらお仕事をされていらっしゃいますが、ハリウッドでお仕事をする上で困難なことは何でしょう?

まず言葉の壁があります。そして文化の違いもあります。僕はアメリカで生まれ育ったわけではないので、現場で微妙なニュアンスの表現が難しく感じるときもあります。ですから1番の理想はそういった壁を感じることなくコミュニケーションができることです。しかしながら今僕は、理想につながる道の途中にいると信じているので、前を向いて全力で頑張るのみです。正直、まるで障害でも抱えているかのように、他の役者とは対等な立場にはいないのではと悩んだこともありましたが、きっといつか自分の前に立ちはだかる限界を超えられる日が来るはずだと前向きに考えています。

 

では逆に、韓国映画界と比べて、ハリウッドでお仕事をするにあたっての好ましい点は何でしょう?

基本的には韓国もハリウッドも映画製作のシステムは似ています。ただ大きな違いとして挙げられるのは、時間の使い方でしょう。ハリウッドの時間の使い方は合理的なんですよ。労働時間が決まっていますからね。プライベートな時間がどれだけあるかわかっているので、その時間をどう使えばいいのかも明確になります。たとえば撮影のスケジュールが午前7時から午後7時までだった場合、残りの時間は自分が計画した通りに使えます。韓国の映画製作スタイルもだんだんとハリウッド式になってきているので似ているところも多いのですが、一度現場に入ると、いつ撮影が終わるかはわかりません。ですから先が読めないという点が韓国のシステムにはあるかもしれません。

 

韓国では得られなかったハリウッドでの経験はありますか?

約20年前に韓国で僕が俳優の仕事を始めたとき、僕は主演からキャリアをスタートさせました。そういったことから、韓国では助演で作品に出演する機会はなかったんです。けれど今アメリカ映画では、僕は助演として出演しています。クローズアップで撮影されないこともありました。今までにないことでしたが、なかなか脚光が浴びられない役を演じる俳優の気持ちが理解できるようになりました。素晴らしい経験になっています。

 

韓国から離れて、韓国映画の魅力が見えてきたりしましたか?

『インサイダーズ/内部者たち』より

僕は韓国に住んでいますし、映画界でずっと仕事をしていますから、客観的に韓国映画のことは見られないかもしれません。しかし僕の海外の友人が、韓国映画の描かれ方は、彼らの国の映画のものとは随分違うと言っていました。国は違ってもその友人たちは映画関係者なので、彼らは次に何が起こるのか想像しながら映画を観ています。けれど韓国映画は予想外のシーンの連続なので、彼らでさえも想像ができないと言うのです。そこが韓国映画の「強み」だと語っていました。

 

公開を控えたハリウッド映画『マグニフィセント・セブン』では、ハリウッドでも第一線で活躍する俳優と共演されていますね。

クリス・プラット本人は映画の中よりも面白いんです。笑わせてくれるし、謙虚ですし、とてもいい奴なんですよ。デンゼル・ワシントンは真面目な方だという印象です。いつも映画について語っているし、カメラの前に立つと彼の持つカリスマが爆発します。素晴らしい俳優ですよ。イーサン・ホークは詩人かと思うくらい、とにかくお喋りです。現場で詩を書いて読んでくれたときもあったのを覚えています。当時はまだ出版されていなかったのですが、彼が書いた3作目の本『Rules for a Knight』の初版をいただきました。彼はその本を2冊持っていたので、撮影最終日にクリス・プラットと僕にくれたんですよ。僕の宝物です。またイーサン・ホークと僕は同い年だということもあり、とても仲の良くなりました。

 

『マグニフィセント・セブン』は西部劇ですが、撮影はいかがでしたか?

最高の時間でしたよ。撮影はルイジアナのバトン・ルージュで行われたので、気候に悩まされました。40度の暑さと90%の湿度の中での撮影だったため、スタントマンが気を失ったこともありました。撮影中は救急車が常に現場で待機していましたよ。とにかく厳しい環境での撮影でしたね。しかもそんな状況の中、撮影のスケジュールが3週間分遅れてしまいました。ただそのおかげでみんなとの絆も深まり、友情を温めることができたのはうれしかったです。みんなでいろんなことを話しましたし、よく飲みにも行っていたんですよ。アメリカ人の俳優たちとそうやって接することができたのは初めてだったので、『マグニフィセント・セブン』の撮影は僕にとってかけがえのないものになりました。それまでも『G.I.ジョー』『REDリターンズ』『ターミネーター』といった作品にも出演しており、それらも良い経験になりましたが、今回は特別でした。私生活のことやお互いの秘密まで共演者と話せていましたからね。貴重な経験でした。

 

第88回アカデミー賞では、プレゼンターを務められていました。そして現在、韓国人として初めて映画芸術科学アカデミーに新会員として招待されていらっしゃいます。

『インサイダーズ/内部者たち』より

この機会をいただく前までは、個人的な目線で映画を楽しんでいました。ところがこれからは、客観的に、また鋭い目線で映画を観なくてはいけないという責任が僕にはあります。ですから、ある種僕の生きがいを奪われたような気持ちもあります。しかしアカデミー賞の投票権があるということにはとてもワクワクしていますし、大変光栄に思っています。

 

 

大人になろうとせず好奇心を持ち続けることが大切

 

俳優になろうとは思われていなかったそうですが、今や国際的なスターですね。そうやって何が起こるかわからないのが人生だと思いますが、ご自身の変化をどう思われますか?

若いときは、やりたいこともやりたいくないこともできるだけたくさんのことを経験するべきです。僕は演じるということがどういうことかも理解していませんでしたし、俳優という仕事に興味も持っていませんでした。だから俳優にならないことだけはわかっていたんです。ところが演技を経験してみて、それが生涯続けたいものになりました。自分の可能性は実は未知数なんですよ。

 

もし俳優をやっていなかったら何をされていたと思いますか?

『インサイダーズ/内部者たち』より

僕は3歳のときに初めて映画を観ました。あれは『パピヨン』というフランス映画で、それ以来従兄弟に映画館に連れて行って欲しいとしつこくせがんでいたのを覚えています。ただ当時よくわからなかったのは、僕は果たして映画館に行きたいのか、映画を観に行きたいのか、どっちなのかということ。きっとどちらにも惹かれていたと思っていますが、当時の僕はとにかく映画館という空間が好きで仕方がありませんでした。だからもし俳優というお仕事をしていなければ、映画館の経営者になっていたかもしれません。

 

子供の頃、お父さんとよく映画を観ていらっしゃったそうですね。その経験は今の俳優としてのキャリアにどのように影響を与えていますか?

そのときの思い出や経験は今でも心に強く残っています。ただ、それがどのように僕の人生や俳優としてのキャリアに影響を与えているかはわかりません。しかし僕はやはり西部劇やスーパーマン、また香港ノワールや中国武術ものといった映画を観て育ちましたし、それらにとても影響を受けているのは間違いないです。どういう風に僕に影響を与えているのかは言葉ではなかなか説明しにくいのですが。

 

これまで俳優としてたくさんのターニングポイントがあられたかと思いますが、今のところ何が一番大きなターニングポイントになっていたと思いますか?

『インサイダーズ/内部者たち』より

なかなか自分を客観的に見られないので、何がターニングポイントになったのかはよくわからないのですが、『我が心のオルガン』という映画に参加したときかもしれません。それまでは自分の役に集中してお仕事をしていました。物語ではなく自分の役が一番大切だと思っていたんです。そういう気持ちでお仕事も選んでいた気がします。ところが『我が心のオルガン』から自分の役よりも物語を重視して作品を選ぶようになりました。そのときから僕の意識は大きく変わったと思っています。

 

これから挑戦したい役はありますか?

ある特定の役をどうしてもやりたいという気持ちはあまりありません。もしやりたい役があれば、先入観にとらわれたまま脚本を読んでしまうので、そういう気持ちは持たないようにしています。もし機会があればゲイやトランスジェンダーの役も演じてみたいという気持ちもかつてありました。コミカルな役ではなく、深みや味のある役であれば興味はあります。

 

韓国やアメリカでたくさんの素晴らしい映画監督とお仕事をされていらっしゃいますが、この先ご自身で監督をなさりたいというお気持ちはありますか?

もしやる機会があれば、ぜひやってみたいです。けれど今のところは、自分に監督としてのスキルがあるのか、また監督として何が表現したいのかわかりません。今のところ予定はありませんが、もし監督としてどうしても表現したいことが見つかれば、いつか監督をさせていただくかもしれません 。

 

韓国ではご自身で事務所を経営されているそうですね。目標を持った若い俳優たちにどんなことを伝えていますか?

俳優初心者の多くが「良い俳優になるためには何をするべきですか?」と質問をしてきます。けれど僕はその質問には答えられません。演技は教えたり学んだりするものではないと僕は思っているからです。けれど唯一言えることは、大人になってはいけないということ。自分が何を求めているのか想像して、経験したいことは何でもやってみるべきです。それをいつも伝えています。

 

韓国は、儒教に非常に影響を受けている国なので、子供たちは大人になりなさい、男なんだから、女なんだからと言われて育ちます。しかしそれは芸術を志す人たちにとっては翼をもぎ取ることと同じです。ですからアーティストになりたい人や、アートを作っていきたいと思っている人は、それに耳を貸さないようにして、大人になろうとせず好奇心を持ち続けることが大切です。

 

 

テキスト&ポートレイト写真 by 岡本太陽

© Showbox; Courtesy of Dreamwest Pictures

 

第15回ニューヨーク・アジア映画祭 オフィシャルサイト