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Place: Shizuoka

東海道広重美術館

Hiroshige Utagawa
アートカテゴリ:  Visual Art

静岡は東海地方の中でもとりわけ土地が広大なため、浮世絵師・歌川広重の東海道五十三次11枚目三島宿から32枚目白須賀宿まで描かれている。その静岡にあって、現在桜エビ漁で全国的に有名な由比町が描かれたのが、東海道五十三次16枚目の由比宿だ。

 

由比宿には、薩埵峠(さったとうげ)から見渡す駿河湾が広がり、その先に雪に覆われた富士山の姿がある。宿場の跡地は現在、由比本陣公園となっており、そこからほど近いところに歌川広重の作品や、彼に影響された浮世絵版画などが数々展示されている東海道広重美術館がある。

 

美術館周辺は瓦屋根の木造建築物が多く、わずかに当時の面影が残されている。また美術館の表の水路を覗けば、まるで広重の名所江戸百景の『深川萬年橋』に描かれているような亀が来客を迎えてくれる。入り口の大きな門をくぐり、きれいに刈りそろえられた芝生の広場を抜けると、明治天皇が小休していたとされる離れ館『御幸亭』を再現した日本建築があり、側には山岡鉄船が『松榧園』と名付けた庭園が目に留まる。

 

東海道広重美術館には、『名所江戸百景』を含む風景画の名品を中心に約1400点が収蔵されている。来客に浮世絵芸術の素晴らしさを知ってもらうため、毎月その中から厳選して展示替えが行われているそうだ。一度の展示品の数こそ多くないが、1点1点の作品としての魅力を堪能できる。

 

展示品の他には浮世絵や版画の作り方など、日本の古来の芸術の基礎的な技法の紹介がされており日本独自の文化を改めて再確認できる。常時の展示スペースとは別にも期間限定の展示スペースが設けられているのも何度も美術館を訪れたくなる理由かもしれない。

 

期間限定スペースでは、『はんがのけしき』が昨年11月10日から今年の1月24日までは開催されていた。抽象版画の先駆者である山口源、独自の視点から単純な風景を幻想的に見せる前田守一、そして若いながらもコンセプチュアルな版画で世界を魅了する湯浅克俊という世代の違う3人の版画師の作品が展示された。江戸時代からある日本独自の技法を現代的に解釈した彼らの作品はこれからの版画の可能性を感じさせる。

 

かつて歌川広重らが浮世絵で見せた世界が、ルノワール、モネ、ロートレックなど西洋の画家たちに多大な影響を与え、そして今その西洋の画家たちにも影響を受けた現代の版画師が独自の世界観を生み出している。この歌川広重美術館は、まるで過去200年の美術史をぎゅっと濃縮させたような稀有な場所だ。

 

 

テキスト & 写真 by 神戸郁郎

静岡市東海道広重美術館オフィシャルウェブサイト