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Place: Nagaizumi

ベルナール・ビュッフェ美術館

Bernard Buffet
アートカテゴリ:  Painting

静岡県長泉町にベルナール・ビュフェ美術館がある。創設者・岡本喜一郎氏は、上野国立美術館でビュッフェの作品に初めて出会い、多くの人に彼の作品を見てもらいたいという想いから、1973年に岡本氏の故郷に近い場所に美術館を設立した。

 

富士山麓を走る舗装された道路に導かれ美術館にたどり着くと、人の手入れがいきとどいた豊かな自然が視界に入ってくる。2016年1月は春の息吹を感じさせるほど暖冬で、木々には緑の葉が生い茂り、敷地内の白を基調としたシンプルな作りの建物が一層映えて見えた。

 

敷地に入ると、フランス人画家ベルナール・ビュフェが製作した巨大な昆虫の銅像がまず目に留まる。銅像の反対方向には古代ローマ式の演劇ステージが位置し、それを通り過ぎると建物の入り口そばには美術館ストアや屋外席のあるカフェがある。自然に囲まれた空間でくつろぐためにカフェだけを利用しに来る客も少なくない。

 

入り口の自動ドアを抜けて美術館内に入ると、左右黒い壁に挟まれたガラス越しに小さな中庭が見えてくる。黒壁は実は展示スペースにつながる扉で、ビュフェの世界がその向こうに広がっているのだ。

 

ベルナール・ビュフェとはそもそもどのような人物であったのだろうか。ビュフェは1928年にフランスのパリで生を受け、幼い頃から画家を志、パリ国立高等芸術学校で学んだのち、19歳のときパリで美術の新人賞と批評家賞を受賞。若くして画家としての名声を得た彼は、その後も精力的に活動を続けるが、パーキンソン病を患い絵を描くことが困難になり1999年にこの世を去った。彼は生涯で約8千点もの作品をこの世に残している。

 

美術館は二棟に分かれている。メインビルディングにはビュッフェの初期の作品が展示されており、作品は基本的に年代順に並んでいる。ベルナール・ビュフェの作品に詳しくない方でも、ビュフェという一人の芸術家を一から知り、作風の変化も感じられる展示の仕方がなされている。

 

美術館内はゆったりとした空間で照明も最小限に抑えられており、自然と作品に意識が向く。ビュッフェの自画像はピエロなどに扮した一風変わった自画像が多く、それら代表的な作品を含む50点以上の作品が、その思い思いに作品を見るに相応しい環境に収蔵されている。

 

ビュッフェの作品は全体的にトーンが暗く、虚飾を極力廃し、被写体の顔には笑顔すらないのが印象的だ。彼の母国フランスは第二次世界大戦時にひどい戦場と化した。少年期に心をえぐられるような体験を何度も経験したことが彼の作風に大きく影響しているという。

 

しかし友人リュック・フールノルを通じてアナベルと出会ったことが彼の作風に大きな変化を与える。この美術館にもアナベルを描いた1959年の作品『Annabel in an Evening Dress』が展示されており、彼女を被写体にした作品は全体的に明るい色彩で構成されている。ビュッフェのミューズと呼ばれるアナベルが彼の人生を鮮やかに塗り替えたのだ。

 

晩年期にビュッフェはニューヨークを訪れた。それに伴い彼の作品の被写体は素朴な田舎の風景から都会の巨大なビル群に変わるが、絵のタッチや色使いはやはり寂しさや不安をにじませる。おそらく彼ほど自分自身や被写体の真実を描きだしている画家は当時いなかったはず。だからこそアンディ・ウォーホールも彼のことをそのジャンルのスペシャリストとして評価しているのではないだろうか。

 

 

テキスト by 神戸郁郎

ベルナール・ビュッフェ美術館

〒411-0931 静岡県長泉町東野クレマチスの丘515-57