Interview

 
 
Place: New York

彼女が映し出すもの

Clotilde Courau
アートカテゴリ:  Film, Movie

女優としてキャリア30年目を迎えようとしている今、クロティルド・クローが、ヌーヴェルヴァーグ時代から活躍する映画作家フィリップ・ガレルの、繊細で美しい最新作『パリ、恋人たちの影』に出演した。

 

映画の中でクローが演じるのは、口数が少なく悲しげな表情を浮かべる低予算ドキュメンタリー映画作家ピエール(スタニスラス・メラール)の妻であり、仕事のパートナーでもあるマノン。ときめきのない生活を続ける2人だったが、ピエールはフィルムの記録保管士エリザベット(レナ・ポーガム)に出会い恋に落ちる。この情事をきっかけにピエールは自らの存在意義を見出し、再び妻にも優しく接し始める。マノンもまた恋人を見つけるが、それを知ったピーエルの意識の中で急激にマノンの存在が大きくなっていく。

 

脚本家カロリーヌ・ドゥリュアスと共作するようになってから、ガレル氏の作品では女性の描かれ方がよりリアルになった。そしてマノンは、そんな『パリ、恋人たちの影』の中でひときわ美しく輝く。彼女は心なく憂鬱に生きるピエールを思いやり受け止める女性。それでも彼女が真に求めているのは、愛情や女性としての喜び。だからこそ、物語はしばしばピエールの視点で語られるにも関わらず、女性の性的衝動や男女の性平等を描きながら、女性の存在感を引き立たせていく。また、この作品にはクロティルド・クローの感受性と知性がみなぎり、彼女の女優としての新しい物語もここから始まるだろうと予感させる。

 

 

COOLは、第53回ニューヨーク映画祭を訪れたクロティルド・クローに主演作『パリ、恋人たちの影』について話を聞いた。

 

 

「社会や女性、そして今まさに何が世の中で起こっているのかを映す鏡になりたい」

 

1988年に女優デビューしたあなたは、もうすぐ女優歴30年目を迎えようとしています。俳優としてのお仕事への意識はキャリアの中でどのように変わっていきましたか?

ものすごく変わったわ。このお仕事を始めた当初は、私はまだ若かったけれど素晴らしい監督たちとお仕事ができていた。だから自分がどんな表現者なのか考える暇もなく、次から次へと映画へ出演できていたから甘やかされてしまっていたのね。けれどうれしいことに、母親になってから色々と考える機会を持つことができたの。そしてなぜ私は俳優という仕事を続けたいのか、もう1度よく考えた。

 

今映画監督とお仕事をするときは、彼らの抱える疑問を、私自身も表現者としてじっくり考えているわ。だから今はいろんな映画に出てキャリアを積んでいるのとは違う。私は今、一流の表現者たちの手で作られている映画や舞台や朗読に携わり、社会や女性、そして今まさに何が世の中で起こっているのかを映す鏡になりたいと思っているの。私は俳優の演技をあまり信じていないわ。特に見栄っ張りなものには。今私は脚本家のセンスや世界、そして監督の生み出す映画を信じているの。以前とはこの仕事に対する見方が随分変わったわ、今は全く違うお仕事をしているみたいに。

 

どうして今回ガレル監督とお仕事しようと思われたのですか?

フィリップ・ガレル監督

彼は独自の世界観を持っているわ。また特別な存在であり表現者だから会うだけでも楽しみだった。彼は詩人でもあるの。そして彼は一般的に映画業界でなされている映画の作り方とは全く違うアプローチで映画を作っている。だから、ただ演技のお仕事がしたくて、良い俳優になりたいだけではなく、私のように映画や役柄が映し出すものを届けたい者にとっては、フィリップ、シャンタル・アケルマン、アラン・カヴァリエといった人たちと一緒に時間を過ごして、どう彼らが表現と向き合っているのかを見られるのはこの上ない機会なの。

 

この映画では、1960年代にしばしばヌーヴェルヴァーグで見られたような世界が映し出されます。ガレル監督は特定の時代が感じられない世界を作っている気がしました。

スタニスラス・メラール(左)レナ・ポーガム(右)

何がこの映画に関われて特別だったかって、フィルムで撮影したことかもしれない。1テイクしかシーンも撮らず、継続的に撮影していたから、毎週1週間分のラッシュ上映が行われたわ。2週目も、3週目も、4週目もそうやって観て、映画が生まれる過程に立ち会うことができたの。私は1週目から「期待以上の体験だわ」と感激していたわ。

 

プレスノートで、ガレル監督はこの映画の予算状況や2011年の欧州債務問題について言及しています。

そうね。けれど、フィリップはアメリカの監督たちとは比較していないと思うの。100万ユーロの予算があれば、アメリカでは2本インディペンデント映画が作れるわ。フィリップは確かに非常に限られた予算でやってはいるけれど、他のインディペンデント映画作家たちの状況に比べたら悪くないの。たとえばアメリカのインディペンデント映画は3週間しか撮影期間がない上に、リハーサルもないから。

 

ガレル監督はまた、この映画が低予算だったことで自由もあったと言っていました。

彼ほど知名度もあって評価も高い映画作家にしては、予算はかなり少ないと思うわ。けれど彼はその条件を全部飲むの。自由に映画を作るために。自分が思うように表現したいから、彼は予算の多い映画はやりたくないのよ。

 

ガレル監督は何よりも表現の自由を選択するのですね。

ええ。これは正しい言葉ではないかもしれないけれど、彼は「反政治的」とも言えるわ。彼は自分の表現を妥協したりしないから。

 

 

「若い世代は、性衝動の平等性と向き合い、

新しい道を自分たちで切り開こうとしている」

 

マノンの母は、ピエールと出会うまではマノンの未来は明るかったと言います。マノンはどうしてピエールとの結婚を選んだのでしょう?

スタニスラス・メラール(左)クロティルド・クロー(右)

彼女には強い信念があるわ。そして自分に正直に生きている。マノンはそういう女性なの。映画の冒頭でピエールは父を亡くしたばかりだということがわかる。マノンは彼が鬱になってしまっていることを受け止めながら、彼のことを信じているの。彼は才能ある芸術家だと信じて疑わないから。ただ、ピエールが浮気をしていることを仕方ないと諦めているのかはわからない。彼女がそのことに気づいていないかもしれないし、気づきたいのかもわからない。ただ彼女は彼を愛しているの。この人しかいないと、彼女は信じているから。

 

マノンとピエールは、2人の関係のどういう過程にいるのでしょうか?

もしフィリップだったら、「明日何が起こるかわからない。もしかしたら昨日もなかったかもしれない」と言うでしょう。この映画で描かれることは、彼らの人生の1つの出来事でしかないの。大事なのはそこ。けれどこの映画は始まったばかりのラブストーリーを描いているわけでもない。2人は一緒にいて、かれこれもう10年経つかもしれないし、7年かも、5年かも、3年かもしれない。どのくらいかしら?

 

過去数作品でガレル監督は女優で脚本家のカロリーヌ・ドゥリュアスと一緒に映画を作っています。女性として、ドゥリュアス氏はどういった要素をフィリップの映画にもたらしたと感じますか?

フィリップは、女性らしさが映画に取り込まれるから、女性と一緒に仕事をするのが好きだと言っていたわ。それからこういうことがあった。映画を観たカロリーヌが私のところへ興奮してやって来たの、私がマノンに息吹を吹き込んでくれたって。彼女はフィリップの作品に出てくる女性たちが本当に好きで、私にこうも言ったわ。「あなたはガレル映画的な女優ではないわ。だけど今回彼の世界を表現する女優になってくれた。それだけじゃなく彼の映画に新しい視点や新しい女性性も吹き込んでくれた」って。カロリーヌがフィリップの作品に強い影響を与えていることは確かよ。

 

この映画は「性平等」のようなものを示していますね。ピエールの浮気を女性の視点から批判しませんし、女性もまた性的に感情的な欲求から浮気をしますから。なぜ今この映画でそういった平等性を描くことは重要だったのでしょうか?

スタニスラス・メラール(左)クロティルド・クロー(右)

欲望や女性の性的衝動、男性の性衝動や男女間の反応の違いなどを、この映画のタイトルは示しているわ。性に対して男性なりの真実がある、ということは女性にも同じことが言える。だから全ては性的衝動と性平等が影響しているの。しかし、女性はそういった真実を受け入れ、また受け入れずに来た歴史がある。フェミニズムの歴史の中で、女性は中世の頃から、また宗教などによって、性衝動にも平等があるとは教えられてこなかったの。そこでフィリップは文化的歴史を知る66歳のフランス人男性として、そのテーマに向き合い、自分自身に問い続けたかったの。「女性の影には何があるか?」と。

 

私とスタニスラスがフィリップにタイトルについて質問したことがあったのだけれど、フィリップは画家ギュスターヴ・クールベ作の『世界の起源』の話をしてくれたわ。フィリップは自分自身のことを画家だと思っているから、コーベルの作品を観に行って、もし女性が男性と同じように振舞っていたら一体どんなことが起こるだろうと自分に問いかけた。それに男はどう反応するのか、女はどう反応するのか、愛とは何か、愛とは犠牲にすることなのか、またそれは男が犠牲になるのか、女が犠牲になるのか、果たして犠牲にすることに抵抗しないのか、犠牲になっているふりをしながら実際は自分に正直に生きている人はいるのかと。ほら、この映画はマジックキューブのようにいろんな側面があるでしょう。

 

現在、女性はより自由になっていると思いますか?

西洋ではそうでしょうね。変化のスピードもとても速いわ。その速さのせいで男性を困惑させることもある。けれど若い世代は、性衝動の平等性と向き合い、新しい道を自分たちで切り開こうとしているわ。彼らには性と自由に関しては全く異なる問いを自分たちに投げかけている。でもこういったことは西洋社会のみの現象だと思うわ。

 

しかしこういったことは…

いろんなところで起こっている?

 

そうだと思います。集団的無意識というもので人はつながっていたりしますから。

性や自由に関しても?

 

ええ。きっとある程度の集団的無意識は存在するのではと思います。ある場所で何かが起これば、別の場所で似たようなことが起こるというように。

そうかもしれないわね。ただ、集団的無意識で私たちはつながっていて、意識の芽生えがあったとしても、国の歴史が急速な変化を許さないところもあるのは事実よ。「物事は長い年月をかけて進化する」と、きのうのQ&Aでフィリップが言っていたの。その意見には私も賛成だけれど、それも世代によって進化の捉え方は違うでしょう。フィリップの世代にとっては、現在の社会変化や、女性の性衝動の理解は新しいことなの。でもたとえば彼の息子のルイが監督した作品を観てみると、欲望に関して全く違う問題を扱っている。だから世代の違いで、抱える疑問もきっと違ってくるのね。

 

 

テキスト&インタビュー by 岡本太陽

Courtesy of Distrib Films

 

『パリ、恋人たちの影』は、2017年1月21日(土)より日本公開