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Place: New York

今、過去がこだまする

アートカテゴリ:  Performance

テリー・レオン&キャスト

 

国家や政治、宗教間に緊張感が漂い、世界情勢に不安が高まっている今日。それぞれが正義という槍を振りかざし、賛同しない者は敵とみなし攻撃する。そんな正義によって翻弄される世の中に私たちは生きている。

 

ナチスのユダヤ人強制収容所はあまりにも有名だが、似たような歴史がアメリカにもあったことはほとんど知られていない。1941年12月の日本海軍による真珠湾攻撃を機に、アメリカ国内では日本人の血を引く人々に適性市民としての視線が向けられるようになった。また、1942年2月下旬から、日系アメリカ人や日本人移民は、住み慣れた家を強制的に退去させられ、カリフォルニアやアリゾナ、アーカンソー州を含む、アメリカ全土11カ所の強制収容所に収容された。そうやって誰かの正義によって、日常や尊厳が突然脅かされた人の数は12万以上にものぼった。

 

ジョージ・タケイ&レア・サロンガ

日系アメリカ人俳優ジョージ・タケイも5歳のとき、強制的に住み慣れた家を追い出され、強制収容所に入れられた1人。第二次世界大戦の戦勝国であるアメリカでは、この日系人強制収容所についてはそれほど問題視されてこなかった。しかし78歳を迎えたタケイ氏は、今日の政治家による非人道的な発言などに危機感を覚え、二度と繰り返されるべきではない歴史を、『Allegiance』というブロードウェイミュージカルとして見せる。

 

ブロードウェイ作品では滅多に見られないアジア系俳優が多数出演する『Allegiance』は、作曲と作詞をジェイ・クオ、脚本をクオ氏と共同でマーク・アシトとロレンツォ・シオーンが手掛けた、キムラ一家の物語。サム(テリー・レオン)は、姉のケイ(レア・サロンガ)、父タツオ(クリストフェレン・ノムラ)そしておじいちゃん(ジョージ・タケイ)と、カリフォルニアのサリナスでオレンジを栽培しながら慎ましく暮らしていた。しかし真珠湾が攻撃され、太平洋戦争が勃発したことで、キムラ一家はその他大勢の日系人たちと、砂埃の吹き荒れるトゥールレイクにある、有刺鉄線で囲まれたハート・マウンテン移住センターという強制収容所に送られてしまう。おじいちゃんの教えである「我慢」を胸に、サムはアメリカへの愛国心を証明しようと努め、ケイは日本人の血を引く者たちへの政府の態度に抵抗するが、戦争は彼らを見知らぬ土地へ送るばかりか、家族の絆をも引き裂いていく。

 

マイケル・K・リー、ジョージ・タケイ&レア・サロンガ

戦争は敵味方に分かれて血を流し合うもの。その呪縛は、フィクションである2015年の『スター・ウォーズ フォースの覚醒』の中でも解かれることはなかった。ところが、アメリカ人であることを理解してもらおうと願うあまり、アメリカ軍に志願するサムとは反対に、政府の理不尽に完全なる抵抗を示すのがフランキー・スズキ(マイケル・K・リー)というキャラクター。決して暴力に加担しないフランキーが、このミュージカルを観る人を救うと言っても過言ではない。彼こそが真の「レジスタンス」だ。

 

また、第二次世界大戦と日本という観点で切っても切り離せないのは、広島と長崎の原爆投下。その数日後の8月14日に、日本はポツダム宣言を受諾し、戦争は終わった。そして、日本人強制収容所に収容されていた人々も自由の身になったが、 一瞬のうちにあまりにも多くの命を奪った日本の悲劇に、彼らは戦勝国の中で複雑な思いを抱く。このミュージカルは、たとえ戦争に勝利したとしても、言葉にならない虚しさのみが心に重く残ってしまうことを痛烈に描いている。

 

レア・サロンガ&ジョージ・タケイ

ドナルド・トランプ氏の、日本人強制収容所について支持を示唆する発言や、イスラム教徒の米国へ入国を禁止する提案が大きく報道され、彼の支持率も上がっている事実から、強制収容所というものは決して過去の話ではない。正義を信じれば、第二次世界大戦から70年経った今でも起こりうることなのだ。このミュージカルが、そう私たちに気付かせてくれるのは、ただ日本人の血が体に流れているというだけで、有刺鉄線の中で我慢するしかなかったタケイ氏の強い想いが込められているから。不条理が現実になってもおかしくない今だからこそ、『Allegiance』の持つ声が切実に私たちの胸にこだまする。

 

 

テキスト by 岡本太陽

撮影 by Matthew Murphy

『Allegiance』オフィシャル・ウェブサイト