Events

 
Place: New York

出撃、西部劇ミステリー

Quentin Tarantino
アートカテゴリ:  Film, Movie

2015年12月は、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を筆頭に、多くの話題作が次々と公開されるまさに映画の戦場。そして最も熾烈な戦いが予想されるのは25日のクリスマス。その日、デヴィッド・O・ラッセル監督の『Joy』、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『レヴェナント 蘇りし者』、ピーター・ランデスマン監督の『Concussion』などが公開するが、同日にクエンティン・タランティーノ監督待望の新作『ヘイトフル・エイト』も、北米で100館のみ70ミリフィルム+ロードショースタイルという今日珍しい形で公開することが決定している。

 

映画の公開に先がけニューヨークで12月14日、『ヘイトフル・エイト』の記者会見が行われ、タランティーノが類い稀な映画について語った。タランティーノは、愛して止まない古い映画にインスピレーションを受け独自のスタイルへと昇華する映画作家。まずなぜ今回彼は、70ミリフィルムで撮影した『ヘイトフル・エイト』をこだわりのスタイルで上映したかったのか。「昔ながらのロードショースタイルでこの映画を観て欲しいと思ってね。『アラビアのロレンス』や『ライアンの娘』を思い浮かべると、本編の前に序曲があり、途中インターミッションがある。それらがあることで上映時間も少し長くなるんだけれど。今回約7分の序曲を入れているよ。」

 

『ヘイトフル・エイト』の舞台は南北戦争後のワイオミング州。前作『ジャンゴ 繋がれざる者』も西部劇だったが、タランティーノはこれまで2作続けて同じジャンルの作品を撮ったことがない。どうして彼はまた西部劇映画を作りたいと思ったのだろうか。「だいたいいつもどうやって撮ったらいいのかわからなものを撮ることが多いんだ。何を作りたいかはわかっているけど、それをどういう風に撮影したらいいのかわからないということなんだけど。『キル・ビル』の大掛かりなアクションシーンの撮影なんかがまさにそう。僕は撮影しながらやり方を学んだんだよ。でも同じ類のアクション映画はその後撮っていない。『デス・プルーフ』のカーチェイスなんかもそうだね。」

 

「この映画には実は『ジャンゴ』との共通点があってね。『ヘイトフル・エイト』でも、ずっと西部劇で描かれてこなかった人種問題を扱っているんだ。たとえば『ジャンゴ』は痛快な映画だけれども、アメリカにとって切っても切り離せない大きな問題である奴隷制度を描いているよね。そうすると批判を受けてしまうかもしれないということも意識しながら、敬意を払ってその題材を扱わなくてはないないんだ。だからもちろん『ジャンゴ』と同じ要素も見られるかもしれないけれど、ただ今回は“歴史”を意識するよりも、僕なりの西部劇を作品全体を通してやったことが『ジャンゴ』とは違う点なんだよ。」

 

吹雪の中、8人の登場人物たちは山奥のロッジに避難する。そしてその状況が密室殺人劇を作り出す。「ミステリーが好きでね。脚本の初稿を書いている段階では、何が起こるのかわかっていなかったんだ。観客の目線になって、登場人物たちが何者なのか全くわからない状態でいたいと思っていたから。そして物語が展開するにつれて彼らの正体が少しずつわかればいいだろうってね。サミュエル・L・ジャクソンに書き上げた初稿を送って『どう思った?』と聞いたんだけど、彼はこう言ったよ。『何が起こっているのかわかり始めたとき黒人のエルキュール・ポワレにでもなった気がしたぜ』って。」

 

ロードショー版の『ヘイトフル・エイト』の上映時間は187分(一般上映版は167分)。その長さであっても観客に一瞬の隙も与えないよう登場人物たちがグイグイ物語を引っ張っていく。だから観客は必ず何か恐ろしいことが起こるに違いないと期待をしながら見続けられるのだ。「僕はサスペンスはゴム紐みたいなものだと思っていてね。そしてそれを伸ばしながら物語を展開させて行くんだ。たとえば映画の中で起こる悲惨な出来事の可能性がそのゴム紐だとすると、必ずしも暴力がある必要はないけれど、その心の準備はしておくべきだね。どこで悲惨なものを見ることになるのかはわからないけれど、それが起こるときは世にも恐ろしいものになるだろうって。」

 

逃げ場のない状況の中にある登場人物たちの緊張感や卑劣なやりとりは、タランティーノの初長編映画『レザボア・ドッグス』を思い起こさせる。事実、『レザボア・ドッグス』に出演していたティム・ロスやマイケル・マドセンもこの映画に参加している。「映画を作り終えた段階では、なぜ『レザボア・ドッグス』が作品として成功したのか理由すらわからなかったけれど、観た人の意見が僕に気づかせてくれたよ。だから同じ方法(密室劇)をこれまでの作品でも使っているんだ。特に『イングロリアス・バスターズ』の地下のシーンなんかはそうだね。密室劇は僕の得意技なんだ。」

 

またタランティーノは、密室に生まれる緊張感を生み出すにあたってインスピレーションを受けた映画についても語った。「ジョン・カーペンター版の『遊星からの物体X』にはとても影響を受けたよ。あの映画の主演は『ヘイトフル・エイト』にも出ているカート・ラッセルだったね。だからこの映画は自分で撮った『レザボア・ドッグス』にも、カーペンターの『遊星からの物体X』にも影響を受けていると言える。登場人物たちが密室にいると、いろいろ妄想してしまって誰も信じられなくなるんだ。それに外は大吹雪で逃げ場もないからね。僕が『遊星からの物体X』を公開初日に見たときのあの忘れられない感覚をみんなにも体験して欲しかったんだ。」

 

 

今回『ヘイトフル・エイト』の音楽を担当したのは伝説的作曲家エンニオ・モリコーネ。彼は『遊星からの物体X』の音楽も担当しており、タランティーノの『イングロリアス・バースターズ』や『ジャンゴ 繋がれざる者』でも彼の既存の楽曲が使われた。エンニオ・モリコーネがこの映画のために曲を書きおろすという夢のような出来事をタランティーノはこう語っている。「この映画にはオリジナルな楽曲が必要だと思ったんだ。映画の良さを引き立ててくれる素晴らしいものをね。エンニオはとても興味を持ってくれたよ。脚本を送ってから、彼にローマに会いに行ったんだ。そして脚本を読んだ彼に『何が見えますか?何が聞こえますか?』と僕がたずねると、彼はこう答えたよ。『前進しているイメージがある。駅馬車がさっそうと雪の中を駆けている。そしてそこにはいつか起こるであろう惨劇を予感させる不吉な音楽が流れている』って。」

 

「まず、エンニオは忙しいだろうと思っていたから、テーマ曲だけ書いて欲しい思っていたんだ。でも会った次の日に、『もっと書くよ』と言ってくれて、結局7分の音楽が12分になり、22分になり、32分になっていったよ。」

 

「それに僕はエンニオが西部劇の音楽を書いてくれるとは思ってもいなくてね。彼はもう西部劇はやりたくないと言っていたから。だからこの映画は西部劇だけれども、『真昼の死闘』のような音楽は期待していなかった。きっと彼が脚本の印象を語っていたように、おそらく暗い音楽になるだろうと思っていたからね。ところが彼が僕にくれたのはジャッロ映画(20世紀のイタリアホラー映画のジャンル)みたいなホラー映画の音楽だったんだよ。でも考えてもみたらジャッロはだいたいミステリーだから、この映画にはジャッロの要素もあるんだ。黒い手袋をはめた殺し屋がこの映画にも出てくるしね。そんな映画を観ながら『正体を暴いてやるぞ。黒い手袋をしているは誰だ!』なんていつも考えてしまうんだけど、『ヘイトフル・エイト』の登場人物の手元を見ると全員黒い手袋しかしていないんだ。(笑)」

 

『ジャンゴ 繋がれざる者』や『ヘイトフル・エイト』が示すように、タランティーノは現在西部劇に夢中だ。そしてそのジャンルをマスターするかのように、現在西部劇のテレビドラマシリーズを構想しているのだという。「バッド・ベティカーやアンソニー・マン、サム・ペキンパーのように“西部劇映画の監督”という代名詞が欲しかったら、最低3本の西部劇を撮らなきゃいけない。僕はエルモア・レナードの『Forty Lashes Less One』を、1話1時間のミニシリーズドラマとして作りたいと思っているんだ。もちろん脚本も書くし、監督もするよ。全部で4話か5話くらいになると理想的だね。『ヘイトフル・エイト』の次回作にも持って来いなんじゃないかな。ユマ準州刑務所が舞台で、人種問題も扱っているからね。めちゃくちゃ面白い本なんだ。物語を考えるのが僕は大好きだからね。この企画が実現できるかどうかそのうちわかるだろうね。」

 

 

テキスト by 岡本太陽

写真 by The Weinstein Company

 

『ヘイトフル・エイト』2月27日(土)より日本公開