Interview

 
 
Place: New York

変わりゆくものへ

Shota Sometani, Ryuichi Hiroki
アートカテゴリ:  Film

変わらないものはない。だから今が愛おしく思えてしまう。オリンピックのため変わりゆく街、東京。その中でも劇的な変化が予想される新宿・歌舞伎町の現在の姿を映した廣木隆一監督作品『さよなら歌舞伎町』が、第14回ニューヨーク・アジア映画祭でニューヨークプレミアを迎えた。本作は『ヴァイブレータ』や『やわらかい生活』で組んだ脚本家・荒井晴彦と廣木による三度目の共作。廣木の優しく温かなタッチ、荒井の鋭くも繊細な視点が、心に触れるリアルを織りなす。

 

物語は、徹(染谷将太)と沙耶(前田敦子)という倦怠期を迎えた同棲中の若い恋人カップルの住むアパートから始まる。たわいもない会話の後、いつものように家を出る2人だが、徹には彼女にさえ言えない秘密があった。それは一流ホテルへの就職に失敗し、新宿歌舞伎町のラブホテルのマネージャーとして働いていること。彼が今日もまた不満を抱きながら働くそのラブホテルには、韓国人デリヘル嬢、風俗のスカウトマン、AV女優、刑事などユニークな顔ぶれが集まって来る。これはそんな大人たちの滑稽でエロティックな1日を描いた群像劇。

 

この作品で主演を務める染谷将太は、今まさに変わり続けている俳優。ヴェネツィア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞してからの彼の映画界での活躍は目覚ましく、今後さらなる映画界での功績を期待され、今回ニューヨーク・アジア映画祭でライジング・スター賞が贈られた。変わることは楽しみであると同時に怖い。しかし我々の期待や不安をよそに全てのものは変わり続ける。『さよなら歌舞伎町』には、2020年に向けて開発されてゆく環境、そして飛躍してゆく1人の俳優の今が大切に封じ込められている。

 

 

COOLは、ニューヨーク・アジア映画祭のためニューヨークを訪れたライジング・スター賞受賞俳優・染谷将太、そして監督の廣木隆一に『さよなら歌舞伎町』について話を聞いた。

 

<染谷将太>

この脚本を読むまで先入観があったそうですが、それがどういった先入観だったのか、そしてそれがどう変わっていったのか教えて下さい。

脚本の荒井さんが、監督は廣木さんで歌舞伎町のラブホテルでピンク映画を撮りたいとおっしゃっていて、このご時世にこのお二方がピンク映画を撮るのはもう最後かもしれないと思って、興味がある旨を伝えていたんですね。脚本をいただく前はもっと暗い話なのかなと思っていたんですけど、愛情溢れる脚本になっていて、出来上がった映画も愛に溢れたものになっていました。

 

今回ラブホテルの従業員を演じられました。その役へのアプローチを教えてください。

ラブホテルで働いていた知人がいたので、職場の雰囲気や、そこでどんなことがあり得るのか、またラブホテルの従業員ということを踏まえた日々はどういうものだったのかといった話を聞ききました。それから、ラブホテルの清掃員の方々が経験したことなどが書いてある「歌舞伎町ラブホテル夜間清掃員は見た」というユニークな本を読んだりもしました。あとはもう現場に違和感なく自分がいられるのかということに努めました。

 

徹は自分に満足していないという設定です。現代の若者のフラストレーションというものをどう理解していましたか?

自分もおそらく徹と同世代なんですが、自分があの役を通して感じたのは、彼は男の子らしいということです。彼の強がったりするところ、要は弱いということなんですが、そういう不安があるのがあの年代の男の子らしいと思います。でも心のどこかに熱いものは持っているという印象があったので、ああだこうだグダグダ言っているけれど、魅力的なキャラクターだなと思いました。

 

この映画の中で印象に残っているシーンはありましたか?

2週間という期間でほぼ寝ないで仕事をしていたんですね。最後の方にバスのシーンがあるんですが、夕方から朝方まで撮影した後、そのシーンを撮りにそのままみんなでバス停まで移動しました。そして「このラストカットどうしようか」と監督がおっしゃったときに、僕は「眠いっすね」と言ったんです。本当に僕自身も眠かったのと、徹もきっと眠いだろうと思って。この映画で描かれる“食べる”や“セックス”と同じように、人間は結局“眠い”というところに行き着くのが面白いと思いました。

 

影響を受けた海外の俳優はいますか?

あえて1人挙げるならフィリップ・シーモア・ホフマンです。『ブギーナイツ』の彼の初登場シーンで、台詞がなかったにも関わらず全ての情報を得られたというか。こういう生活をしている人なんだろうなというのが体レベルで表現されていて、そこにいて違和感がないというが凄いなと思いました。

 

染谷さんは4年前にもニューヨークに来られていました。そしてその直後にヴェネツィア国際映画祭でマルチェロ・マストロヤンニ賞を取られましたね。この4年間の活動はどういうものでしたか?

本当に濃い4年間で、面白いことしかありませんでした。一気に環境も変わりましたし、人ってこんなに短い期間に変化してしまうものなんだと勉強になりました。いろんなものが通り過ぎて行って、本当に環境が変化していくというのは速いなと思いました。

 

今回ライジング・スター賞を受賞されましたが、国際舞台への飛躍などは視野に入れられていますか?

僕はあまり先の方まで考えていなくて。でもこの仕事は一生続けていきたいと思っていて、これから何があるか分かりませんが、もっと面白いことがやっていけたらと思っています。ただそれが海外作品への挑戦に関わっていくかどうかはまだ分からないですが。そのときそのときにできることをやっていきたいと思っています。

 

 

<廣木隆一>

歌舞伎町のラブホテルを舞台に映画を撮ろうと思われたきっかけは?

「歌舞伎町ラブホテル夜間清掃員は見た」という本にインスパイアされて書かれた荒井さんの脚本が僕のところに来たんです。一番僕が興味を持ったのは、それが群像劇だったことです。群像劇は今までやったことがなかったので荒井さんの描いた世界観に僕がチャレンジしました。それから今、東京はどんどん変わって行っているんですけど、その中でも新宿はオリンピックに向けて随分様変わりするだろうと思っているので、今の姿を残せれば良いなと思いました。

 

監督から見た染谷さんはどんな役者ですか?

撮影期間が2週間だったんですよ。実際のラブホテルで撮影をしていたので、そういう場に彼はいきなり2週間放り込まれたんです。ホテルの営業中も撮影していたので、従業員の方々ももちろんいらっしゃるんですよ。でも自分の出番がないときには、彼はそこで働いている人たちと自然と話していたんですよね。そうやってそこの空気やリズムにうまく溶け込んでくれたなと思いましたし、映画の空気感をちゃんと掴まえてくれました。理屈では分からないことを感じられる役者だと思います。

 

韓国人女優イ・ウヌの演技は素晴らしかったですね。彼女の何に惹かれたのですか?

キャスティングのため、初めは日本で在日の方などに会ってたんですけど、なかなか決まらなくて。そんな中、彼女が出ている『メビウス』の噂を聞いて、韓国に会いに行ったんです。でも会ってみたら映画と全然印象が違う方で、そのときに凄い女優だなと思いました。彼女も脚本を気に入ってくれて、やりたいと言ってくれました。ただ心配だったのが、裸のシーンがあったことでした。日本映画に出るのに裸のシーンがあるので本人も凄く悩んでいて。でもやると決めて日本に来てからは、新大久保のホテルに泊まったり、デリヘルの女性にも役作りのために会ったりしながらどんどん役になっていってくれました。完成した作品を釜山国際映画祭で初めて観たときには、彼女感激して大泣きしていたんです。もしかしたら日本映画で脱いだということを指摘されてしまうのかと思いましたが、お客さんは、映画は映画として観てくれていましたし、イ・ウヌの芝居に拍手してくれて嬉しかったです。

 

映画の中には、セックスシーンと同じくらい食べるシーンがありますね。

僕は食べるシーンとセックスシーンが好きなんですよ。ですから僕の映画にはその2つはよく出てくるんです。撮影を始める前に、どんなものをこの人たちは食べているんだろうというのをスタッフと考えるんですね。それを描くことで、この人たちの生きている世界がどういうものなのかを分かってもらえたらいいなと。それと同じようにこの人たちはどういうセックスをするのだろうと考えると、楽しくなってくるんですよね。

 

特に今年観た日本映画には濃厚なセックスを描く作品が多くある気がしました。今、セックスを描くということは映画にとってどういう意味があると思いますか?

この映画においては、ラブホテルはセックスが込みになっているというのが1つ理由としてあると思うんですね。ラブホテルでセックスしないカップルがたくさんいてもしょうがないですし、そこを描かない限り全然リアルにはなりません。ですからセックスを描きたかったというよりは、ラブホテルが自分の恥を曝け出せる空間だったりするので、大人がセックスしながらバカなことをやってる姿を見せたかったんです。だからセックスを描いて何か訴えたいということではなく、ラブホテルにある日常を描きました。

 

震災の話も映画の中に出てきますが、何か映画に込めたい想いがあられたのでしょうか?

あれは僕の個人的な想いがあって入れさせてもらいました。僕は福島出身で、震災については、これとはまた別なものとして映画にしたいと思っているんです。でも『さよなら歌舞伎町』の中にも、違う色の愛としてそういうものは出して良いかなと思いました。ただそうなるとそこが突出することになって、みんなそこだけを見てしまうじゃないですか。だからそれがあって良いのかというところで悩みました。その他に新大久保でヘイトスピーチが行われているシーンがあるんですけど、恥ずかしい行為ですが、それもまた実際に日本で起こっていることです。そうやって今日本で起こっていることをいくつか入れると、何かが突出することなくバランスが取れた気がしました。

 

何が今のご自身の映画作りに影響していますか?

サンダンス・インスティテュートに以前来ていたときに教わったことがありました。僕はそんなに助監督の経験はなくて、他の監督のやり方とか知らないまま監督になったんです。そんな中でサンダンスに行ったときに、「廣木はどういう風に映画撮りたいんだ」と聞かれて、率直な想いを説明したら、「それで良い。それが監督としての癖になるんだから」と言われました。その言葉が印象に残っていますし、それが今の作品にも影響しています。

 

 

テキスト&インタビュー by 岡本太陽

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