Interview

 
 
Place: New York

子供たちの運命を決めるファイナルステージ

ベス・カーグマン
アートカテゴリ:  Film

ユース・アメリカ・グランプリとは、ニューヨークで最終選考が行われる世界中の少年少女が競い合うバレエ・コンクール。そこで良い成績を残せば、有名なバレエ団の目に留まる、または名門校への奨学金が約束される。昨年、トロント映画祭やニューヨークのドキュメンタリー映画祭DOC NYCなどで上映され話題を呼んだベス・カーグマンの監督デビュー作『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!』は、ユース・アメリカ・グランプリに夢を託し、バレエに情熱を捧げる子供たちに焦点を当てた物語だ。

アラン、ミケーラ、ジョアン・セバスチャン、ミコ、ジュールズ、レベッカそしてガヤという7人の少年少女のバレエダンサーがこのドキュメンタリー映画の主人公たち。それぞれに全く異なる境遇に生まれ育った個性豊かな七色の才能をカメラは追う。自身もバレエの経験を持つカーグマンの見るバレエはわたしたちの見るものとは全く違う。カメラに映るのは華やかな衣装を身に纏い軽やかに踊る子供たちの姿はもちろん、それとは対照的にステージに立つまでの彼らの驚くほど過酷な練習風景や怪我。また、子供たちのプライベートな時間にまで迫っている。

痩せているバレエダンサーは食事をろくに摂らない、男性のバレエダンサーはゲイが多い、バレエを習う子には必ずステージマザーが付いている、といったステレオタイプにあえて焦点を当てず、それらを背景に配置したのが本作。もっと様々な景色や色がバレエ界にはあるということをカーグマンは描きたかったと語る。そのことこそが本作を全く別次元のバレエ映画に押し上げているのだ。子供たちが払う犠牲、親たちが払う犠牲、そして以前は白人主導だったものがもっとインターナショナルな新しい形に変化している今日のバレエ界など、ステレオタイプを全面に出さないからこそ、描かれた真実が本作にはある。

 

 

•COOLはニューヨークで監督のベス・カーグマンにインタビューを行った。

以前にバレエを習われたそうですが、そのときに強く印象に残っていることは?私は約12年間バレエを習ってたの。バレエをやるには自分自身の全てを捧げなくてはいけない。私はまだ幼かったけれど、すぐにそのことを理解したわ。バレエダンサーとして生きていくには、何時間も練習に時間を費やさなくてはならないし、自分自身に厳しくなくてはいけない。それから子供って全身で気持ちを表現するでしょ?クラシック音楽に乗せて踊るって本当に素晴らしいと思ったわ。ほらバレエ教室には必ず生で演奏するピアノ奏者がいるでしょ。あれは忘れられない思い出ね。

バレエに対するステレオタイプのない映画を作りたかったそうですが、やはり映画の中にはそういった要素も見えてしまいます。例えそういった要素を見せたくなかったとしてもドキュメンタリー映画はそこにあるものを全て捉えてしまいますよね。どうしてそういったステレオタイプを見せたくないと思われたのですか?何が興味深いかって、バレエの世界を描くのにステレオタイプが驚くほど誇張されてしまっていることなの。だから私としてはそうじゃないところを見せて観客を驚かせたかったの。確かに食事をろくに摂らないダンサーももちろんいるし、子供の自由を取り上げる親もいるわ。でもね、全くそうではない人たちもたくさんいるの。例えばバレエダンサーが細過ぎたとする、そうするとその人はプロとしてやっていくにはか弱過ぎて無理なの。親があまりに子供に強要し過ぎると、子供はバレエに対する愛を失ってしまって、親元を離れられる年頃になると止めてしまうわ。だから私はステレオタイプを持つ人たちを探して映画を作りたくなかった。私はジャーナリズムを勉強していたから、真実を伝えたいの。

映画の撮影でイタリア、イギリス、コロンビアなどに行かれてますよね。映画監督デビュー作としては製作費に非常に恵まれている印象を受けました。製作費を最低限に抑えるためにスタッフを少人数で構成したの。映画のプロデュースも私自身でやったわ。プロデューサーが必要じゃなかったというわけではないくてね。海外でもアメリカ国内でも基本的に私たちのチームは、監督の私、カメラマンのニック・ヒギンズ、音響担当のエリック・トーマスの3人だけだったの。しかも遠方に行ったときはいつも短い滞在だったわ。ローマに行ったときも、観光は全く出来なかった。撮影に行って帰って来ただけ。海外に行くとやっぱりお金が掛かってしまうでしょ。だから犠牲にしなくてはいけないこともいろいろあったわ。例えば、ガヤが住んでいるイスラエルには行けなかったの。他の子は全員彼らの自宅でも撮影したにも関わらずね。映画の資金集めは本当に大変だった。映画を観てるだけではなかなかそこまでは伝わらないかもしれないけれど。映画を編集している段階で製作費が底を付いてしまうトラブルもあったわ。だから半分近く私自身で編集もやったの。

映画は7人の子供たちに焦点が当てられています。元々は何人の子供たちを追っていたのですか?ほぼ全員がファイナルまで行きますよね。私自身バレエの経験があったせいで、どの子が卓越した能力があるか見抜けたの。もしあの7人が誰1人としてユース・アメリカ・グランプリのファイナルに行くことが出来なかったとしたら、不正以外何ものでもないわ。だって私が子供の頃彼らほどの才能を持っている子は見たことがなかったもの。映画の中には主要の7人以外のダンサーもいる。足を怪我したダンサーたちが出て来たりしたでしょ。私としては7人全員が良い結果を残さなくても良かったの。それはそれで素晴らしい物語が作れるから。でもずば抜けて才能のある子たちを選んだわ。

あなたが追った7人の子供たちはそれぞれに全く違うキャラクターを持ってますよね。私にとってそれぞれに全く違う個性を持ったキャラクターが映画の中にいることは非常に重要だった。例えばレベッカ、彼女は普通の女の子の側面も持ち合わせていたわ。でもやはり彼女はバレエダンサーに最適なしなやかで美しい容姿を持っているし、ちょっと見た限りでは、彼女は金持ちできっと簡単に勝負でも勝ち残って行くんだろうって思ってしまうわよね。でも違うの、バレエの世界では皆辛い思いをしているの。レベッカはとてもユーモアがあって、カメラが回っているのをちゃんと意識していたから、彼女が”お姫様キャラ”だってことを快く見せてくれたの。もし彼女がいなかったら他の子たちとの面白い対比も生まれなかったと思うの。

ミコの弟ジュールズがこの映画の最も面白い要素の1つだと感じました。というのも彼は他の子と比べバレエへの情熱もそこそこで、やっとごく普通の子供を見たと感じました。彼の存在はこの映画の中で非常に重要よ。もしミコにバレエを完璧にこなす弟がいたら、きっとつまらなかったと思うの。ミコに弟がいるって知った時、これは面白いことになるって直感で分かったわ。なぜなら姉弟にはかならず何かしら対比が生まれるから。男の子のバレエダンサーがバレエを始める理由の多くは姉が通っているバレエ教室の外で座って待っているときに、試しにやってみて始めるケースが多いのよね。ジュールズもその1人。でも彼に会った時、彼はバレエにはそんなに興味がないってすぐ分かって、ちょっと興奮したわ。それって素敵じゃない?だってもしバレエを習ってる子たち全員がバレエに情熱を捧げていたとしたら、それはそれでつまらないじゃない。ジュールズはとっても賢いし、学校でも成績はトップクラスだから彼の父親みたいに実業家にもなれると思うわ。

ミコとジュールズは半分日本人で、母親サトコさんも含め、彼らはとても興味深い家族ですよね。ある日私が外を歩いているとき、ユース・アメリカ・グランプリの看板を見つけて会場に入ったの。2009年だったわ。そのときステージに素晴らしいバレリーナが現れたの。感動したわ。彼女の名前がステージで呼ばれたときに、ちょっと日本人ぽい名前だなと思ったの。その後プログラムを見ながら、その名前を探した。そしてミコ・フォーガティという名前を見つけたの。それから彼女のお母さんに電話して言ったの、「おそらくお宅のお嬢さんのダンスを見たんですけど、素晴らしいパフォーマンスでした」って。その時にミコに弟がいることも知ったわ。そこで彼らのお母さんにお願いしたの、「あなた方にお会いしたいです。ドキュメンタリー映画を作ろうと思っていて、是非あなた方に出演して欲しいです」って。彼らは一番最初に私のプロジェクトに参加してくれたのよ。

ミコやジュールズに限らず、映画の中でアジア系のバレエダンサーがとても多い印象を受けました。今バレエ界にはアジア系のダンサーが非常に多いという事実があるわ。日本も優れたダンサーを多く輩出しているの。私はそれを見せたかった。ミコは日本に行ってバレエのトレーニングも受けているし、日本という土地や日本の文化とも強い繋がりをもっているの。私たちは大阪にも行って撮影を行ったわ。なぜなら日本では最も美しい衣装が作られているから。映画が始まって初めの2つのカットは日本で撮ったのよ。また、最も大きなセミファイナルは日本にあって、アジア中から優秀な子供たちが集まるの。日本人は様々な面で細部までこだわる能力があるから、それが素晴らしいダンサーを生み出しているんだと思うわ。

ジョアン・セバスチャンはバレエに情熱を傾ける一方で、家族を助けるためにプロのダンサーを目指すという側面を持ち合わせています。また、ミケーラはバレエ学校を作りたいと考えていますよね。そこで他の子たちは将来についてどう考えているのでしょうか?ミケーラは現在白人の多いバレエカンパニーの中の数少ない黒人バレエダンサーなの。彼女は他の黒人のバレエダンサーにこう言いたいの、「ほら、あなたたちも私みたいになれる」って。それが彼女のもう1つの夢。軍医の父を持つアランは、もしバレエを辞めたらバレエダンサーのための医者になりたいと思っているわ。素敵よね。彼らはまだプロを目指している途中だし、プロとしてやっていくことが出来なかったときどうするかはぼんやりしているけれど、親としては第2のプランも考えて欲しいと思うのよね。ジョアン・セバスチャンは彼のバレエの先生に強く影響を受けていて、将来バレエを教える先生になりたいかもしれないとも言っていたわ。レベッカはもう大学に行っている。ミコには将来的に何をやりたいかは聞かなかったけれど、彼女は数学や科学に強いとても頭の良い子だから、バレエとは全く違う分野でもやりたいことは何でも出来るはずよ。バレエダンサーの中には怪我をした後のことやダンサーとしてのキャリアが予想よりも早く終わることを考えていない人も少なくないの。それってとても怖いことでもあるわ。でも彼らはまだ幼いし、やっぱりプロになるということをメインに掲げているわね。

あなたは子供の頃にバレエを習っていて、14歳のときに止められたそうですね。その選択はこの映画を作ることにどのように影響を与えましたか?12歳から14歳というのはバレエダンサーにとっては重要な年頃なの。そのままプロを目指すか、趣味に留めて高校に行くかを決めなくてはいけない。普通の高校に行く場合、練習量が格段に減ってしまうわ。私は本当にあの7人の若いバレエダンサーには感謝しているの。なぜなら彼らは私にはなかったプロのダンサーを目指すために必要なものを見せてくれたから。映画を観た人たちがわたしに言うの、「バレエがあんなに過酷だとは知らなかった」「バレエの見る目が変わった」って。

最後の質問です。「ファースト・ポジション」はあなた監督デビュー作品ですが、映画制作をやるきっかけは何だったのでしょうか?そして映画制作者としての最初の目標は?私はさっき言ったようにジャーナリズムを勉強したの。ジャーナリズムを勉強していた学校でドキュメンタリー映画を作る授業を取ったんだけど、魅了されてしまったわ。それからいつか必ずドキュメンタリー映画を作ると心に誓ったの。私の映画制作者としての最初の目標はメジャーな映画祭に作品を出展すること。そして配給が決まって映画館で作品を上映すること。もしそれが出来なかったら私のストーリーテリングが十分じゃなかったってことだと思うの。なぜならこの映画は今まで作られたことのないものだと思うし、感動的な物語が詰まっているんですもの。この映画はまだバレエを習ったことのない人に是非観て欲しいと思っているの、もちろん男女関係なくね。私の目標はこの映画を作りながら生まれたわ。

 

 

text by 岡本太陽

ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!

(C)First Position Films LLC

12月1日、Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開

配給:セテラ/ミモザフィルムズ 宣伝:ミモザフィルムズ/Lem

 

 

■2011年製作・アメリカ映画・94分 HD撮影 

■監督・プロデューサー・編集:ベス・カーグマン(映画デビュー作)

■撮影・アソシエイトプロデューサー:ニック・ヒギンス『カウントダウンZERO』

■製作:ローズ・カイオラ  音楽:クリス・ハジアン  編集:ケイト・アメンド

■全米公開:2012年5月4日(金)N.Y&L.A限定公開  5/11より全米拡大公開

■提供:セテラ/ミモザフィルムズ/スターサンズ/Bunkamura  ■協賛:チャコット/シルビア