Interview

 
 
Place: New York

役所広司、悠々と流れる俳優人生

Koji Yakusho
アートカテゴリ:  Film

日本の映画俳優・役所広司。海外でも高い評価を受ける映画監督・黒沢清、周防正行、三池崇史らの作品に多数出演し、実に色とりどりな役を演じてきた。そんな彼は2005年にはロブ・マーシャル監督の『SAYURI』でハリウッドデビュー、また2009年の『ガマの油』では初監督も務め、名実共に日本を代表する映画人となった。出演映画60作品以上というキャリアを誇り、その安定した活躍ぶりから演技に対するストイックな信念があるのかと思わされるが、意外にも本人から受ける印象は「水」。水のように流れ、流れに身を任せ、流れ着く先で何にでも形を変えることができる。そして、溢れるとまた動きだし、次に止まる所まで悠々と流れを楽しむ。その生きざまこそが世界から注目を集める俳優へと彼を導いたのだろうか。

ジャパン・カッツ!の自身の特集のためニューヨークを訪れた役所広司が新作映画
『キツツキと雨』や彼の俳優人生について語った。

ジャパン・カッツ!で役所広司特集が組まれ、6本の映画が上映されますよね。最近の作品もありますが、なかなか大きなスクリーンではもう観ることの出来ないかなり前の作品も上映されるので、非常に嬉しく思います。また何よりも憧れていたジャパン・ソサエティに特集を組んで頂き、ニューヨークの方々に観て頂けるというのはとても光栄です。本当だったら作品を作った仲間たちとこういった場所で一緒に観たいと思いますね。日本での公開したときの反応と、海外の映画祭に行って、その国の人たちの映画に対する反応の違いは本当に面白いですからね。僕はほとんど自分の映画は試写室で、一度しか観ないんですが、映画祭のときにはお客さんと一緒に観ます。そういうときに自分の出た映画の面白さを観客から教わるこが多いです。

ニューヨーク・タイムズ紙に役所さんについて大きく取り上げられ、日本で志村喬さん、三船敏郎さん、仲代達矢さん、ハリウッドではジェームズ・スチュワートやトム・ハンクスに並ぶと書かれてましたね。嬉しいですね。僕たちは現在一所懸命日本映画を作っているんですが、やっぱり志村さん、三船さん、仲代さんが日本映画の黄金時代を築いて来られて、彼らから無意識に影響を受けている俳優たちは、少なくないと思います。僕は彼らの大ファンですから、本当に光栄です。

役所さんは長崎から上京されて公務員をやられていましたが、そこから倍率の高い無名塾に行き着いた理由は?仲代達矢さんの舞台公演を観て、演劇というものに感銘を受けたんです。そして演劇をよく観るようになった頃に、仲代さんの無名塾という存在を知り、当時僕は公務員でしたが、思い切ってオーディションを受けてみました。二百倍という難関でしたが、幸運にも採用され、俳優としてスタートしました。丁度僕が無名塾に入った頃に、ニューヨークのジャパン・ソサエティで仲代さんの特集が組まれていて、その時に初めてジャパン・ソサエティの存在を知り、仲代さんがそういうところで特集を組まれるなんてやっぱり凄い俳優なんだな、と思いましたね。

今回ジャパン・カッツ!のセンターピースとして上映される『キツツキと雨』で、木こりの克彦(かつひこ)を演じられてますが、彼を演じるにあたって気を配られた点は?やはり本物の林業の方々に指導を受け、道具の使い方、木の事、森の事などの取材をしました。数日林業の方々と過ごし、雰囲気を掴むことが役を作る上で重要でした。あと、ユンボの操縦はなかなか難しくて、でもやってるうちに面白くて夢中になりましたね。僕たちは地方ロケで映画を撮る時、地元の方たちにもの凄くお世話になるんですよ。地方の方々は撮影にとても協力的で、スタッフの一員として頑張って下さる人たちが少なくないんです。今回この『キツツキと雨』という映画でそんな方々に恩返し出来ると良いなと思いました。クランクインのときは、大震災から約一週間後というときだったので、この映画は本当に始められるのか、スタッフやキャストはみんな不安に思ってましたが、この映画は笑顔を引き出せる作品なので、この映画を作って、被災された方々に一瞬だけでも笑顔を取り戻して欲しいな、と皆それを合い言葉に頑張りました。

『キツツキと雨』で、小栗さん扮する自信のない映画監督が、克彦に映画制作者として認められて、どんどん自信を付けて行きますよね。役所さんも駆け出しの頃は自信ないこともあったと思いますが、仲代さん以外で役者として認めてくれた方は?そうですね。まぁ今も自信はないんですが、やっぱり家族は一番の見方ですよね。良いときも悪いときも正直な意見を言ってくれるのは家族でしょうね。もちろん監督や共演者にはいろんなことを教えられましたが、一緒に映画を作ったスタッフが、僕に「良かったぞ」と言ってくれる人たちがいました。そんなスタッフから勇気をもらって今までやってこれたように思いますね。

ハリウッド作品にも出られてますよね。そういった海外の作品に出演されるにあたって気持ちの上での違いは?気持ちはもちろん違うと思いますが、撮影現場はやはり同じですね。例えばアメリカの大きな製作費を投じた映画で、現場にたくさん人がいて、見るからに環境が違っても、カメラの前で芝居するという点では同じですよね。ただ作って行く時間の余裕は圧倒的に違いますね。ハリウッド映画はやはり世界中から素晴らしい映画人が集まってきていますし、良い作品に出会えれば、挑戦したいと思ってます。

日本の作品と海外の作品との演出方法の違いはありますか?ロブ・マーシャル監督の『SAYURI』と言われるいわゆるハリウッド映画と、アレハンドロ・イニャリトゥ監督の『バベル』とはまた全然タイプが違いましたね。『バベル』のスタッフや現場は、日本映画の現場に共通する雰囲気がありました。誰が何をやっているのかが把握出来る現場でしたね。フランソワ・ジラール監督の『シルク』という作品は日本部分の撮影については、日本のやり方を尊重して撮影していました。でも日本映画との違いは、圧倒的に時間に余裕があること、つまり予算があるんでしょうね。かつて日本映画もそいう時代もあったんだと思いますが、一つのシーンを何日も掛けて作る環境があるというのは非常に羨ましく思いますね。というのもそういう環境で俳優も育ったんだと思いますし、監督の想いに近づくために、いろんな苦しみを経験して、それをくぐり抜けて来たからこそ成長出来たんだと思います。緊張感の中、出演者全員が成立するまで待つという現場はなかなか難しくなっているのかもしれません。『キツツキと雨』の沖田監督は必要なカットだけを大事に撮って、ほとんど使わないだろうカットは撮りません。しっかりとしたビジョンを持っている方なので、自分が撮りたいカットに関してはテストを何度もやったり、時間を掛けて撮る方でした。最近では珍しい監督ですね。

役所さんご自身も『ガマの油』で監督なさってますが、やっぱり沖田さんのような若い監督にはご自身も意見を出されたりされますか?基本的には監督の想いに近づくことを考えますね。例えば1シーン撮るときに、先ずテストをやります。そこで自分が役のために準備してきたことを見せる訳ですが、そのときに監督がそれはOKなのか、イメージと違うのか判断します。もし違うのであれば、自分の準備して来たものを一度取り払って、監督の想いに近づける努力をします。それが俳優の仕事だと思います。

これからどういう風に映画界でお仕事をされていきたいですか?今の日本映画はテレビドラマ、漫画、小説といった原作のある映画化が多く、オリジナルの作品は本当に少なくなっています。原作が百万部売れたとかテレビでヒットした作品は、ほぼ興行収入の見込みが狂わないらしいです。確かに興行収入ももちろん映画界が存続して行くためには大事なことですが、映画館に来たお客さんに、オリジナルの物語を提供して、あの劇場の暗闇の中から、何が始まるか分からないという作品ももう少しあっても良いのではないでしょうか。僕は積極的にそういった作品に参加していきたいと思っています。

今までのキャリアを振り返ってみて、人生を変えた出演作について語って頂けますか?今はほとんどテレビは出ていないんですが、映画を中心にやって行こうと決めたのは、ある年『Shall We ダンス?』『眠る男』と『シャブ極道』という三作品に出たときですね。それぞれの監督との出会いと、普通のサラリーマン、電気屋とシャブが体質に合うヤクザ、という三つの全く違う役を演じた一年がもの凄く面白かったんですよ。当時日本映画は今のように興行的に成功している時期じゃなかったのですが、『眠る男』の小栗康平監督に、「あなたは映画をやりなさい」と言われて、映画をやっていこうと思いましたね。今はいつでも過去のテレビの作品も観ることが出来ますが、当時は再放送くらいで終わってましたから、それだったらフィルムとして自分の作品を残したいと思いましたし、映画祭などで世界中の人に触れる可能性のある映画という仕事に魅力を感じてきました。

 

 

text by 岡本太陽

 

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