Interview

 
 
Place: New York

『ステキな金縛り』のワールドプレミアに、三谷幸喜が深津絵里らとニューヨークをサプライズ訪問

三谷幸喜, 深津絵里, 木下隆行
アートカテゴリ:  Film

「Good evening everyone, My name is Koki Mitani. I am the screenwriter, the director and the last samurai」ー 2011年10月19日、ニューヨークのライトハウス・シアターに現れた脚本家、舞台演出家、そして映画監督の三谷幸喜。今回、自身第5作目の監督作品『ステキな金縛り(英題:Ghost of A Chance)』のワールドプレミアに、SMAPの香取慎吾を主演に迎えた2009年の舞台『Talk Like Singing』を上演した、思い入れの強いニューヨークを選んだ。

三谷幸喜といえば、舞台『12人の優しい日本人』や『笑の大学』、テレビドラマ『やっぱり猫が好き』や『古畑任三郎』シリーズなどで国民的人気を獲得し、映画では、『ラジオの時間』や『みんなのいえ』といった作品で、海外でも大きな評価を得ている。独特のコメディセンス、絶妙な台詞の掛け合い、そして最後には心温まるという作品作りが数々のヒットを生み出し、文句無しの日本のヒットメーカーとなった。

構想10年というこの『ステキな金縛り』は、「ファンタジー」、「法廷ミステリー」、「コメディ」といった、アメリカ映画に強く影響を受けた三谷監督ならではの、古き良きアメリカ映画の要素がぎっしり詰まった超ド級のエンターテイメント作品だ。物語は、三流弁護士のエミ(深津絵里)に、妻殺しで捕まった被告人(KAN)の弁護の依頼が持ち込まれるところから始まる。しかし、彼の無実を証明できるのは、落ち武者の幽霊(西田敏行)だけというのだから一筋縄ではいかない。

 

ワールドプレミアには三谷監督のほか、主演の深津絵里、出演者の木下隆行が舞台挨拶に登壇し、深津絵里は「アメリカ映画が大好きで、『猿の惑星』を観たときに女優になろうと決心しました」と言ってみせ、木下隆行は大好きなアメリカンジョークを披露するなど、それぞれ笑いを交えながら、ほとんど英語で挨拶を行なった。映画上映中、そして舞台挨拶と、始終笑いが絶えず、映画の中で度々登場する「アルプス一万尺」のメロディのように、心も躍るワールドプレミアとなった。

ワールドプレミア終了後、三谷幸喜監督にインタビューを行った。

なぜワールドプレミアにニューヨークを選ばれたのでしょう?僕は自身をコメディ作家だと思っているんですが、僕の笑いの原点はアメリカのシットコム(シチュエーション・コメディ)なんです。子供の頃から『アイ・ラブ・ルーシー』や『奥様は魔女』などを観て育ったので、笑いのリズム感はシットコムに影響されている部分が非常に大きいんです。ですから、恩返しというか、それを観て育った僕がこういう作品を作りましたということをお見せしたかったんです。

日本公開前にニューヨークで上映されることに対しては?実を言うと、僕自身はお客さんと一緒に自分の作品を観るという体験は今日が初めてだったんです。たまたま今日はニューヨークですけれども、今後より多くの人に観てもらうための前哨戦というか、しかもそれがニューヨークであるという喜びはもちろんあるんですけれども、僕の中では最初の一歩という気持ちが強いですね。

三谷さんの映画には、各所にパロディが隠されていて、それも面白さのひとつだと思います。今回も『犬神家の一族』を思わせる要素が組み込まれていましたが、この作品を世界発信するためにどんな工夫をされましたか?僕の中では、パロディ的な部分でお客さんを笑わせようという思いは全くなく、僕自身が映画マニアなので、自分が観てきた映画の好きだった要素を集めて映画を作ります。例えば今回の作品は、タイトルバックも含めアニメーションで始まるんですが、今の日本映画でそういった作り方はされないんですね。しかし僕は『ピンク・パンサー』やデザイナーのソウル・バスのおしゃれなアニメで始まる作品が好きだったので、それを一度やってみたかったんです。でもたとえその元ネタを知らなくても、そのおしゃれ感は伝わると思うんです。また僕は市川崑監督が大好きで、『犬神家の一族』のあの雰囲気を一度自分もやってみたいと思っていて、そのくだりを作りましたが、それはたとえ海外の方が『犬神家の一族』をご存知無くても、何の不自由もなく観られるように作りました。映画は、知らないと笑えないというものではあってはいけないと思っていますし、それは僕の映画のカタチではないんです。

そういったアイデアは脚本を書くときに自然と出てくるのでしょうか?7割無意識で、3割は意図的です。洋館で殺人事件が起きるところは、『オーメン』でいきたいなと思っていたので、オーメン風の音楽を作ってもらいました。「アヴェ・サタニ」というテーマ歌曲は、たしかラテン語なんですが、それを日本語でオーメン風に歌ってもらったりとか、僕にしか分からないような楽しみはたくさんありますね(笑)

三谷さんは、よくビリー・ワイルダーを彷彿させるようなシリアスとコミカルをうまく重ね合わせて演出してらっしゃいますが、ビリー・ワイルダーの影響についてお話していただけますか?
僕の一番尊敬する映画監督はビリー・ワイルダーなので、もし悩んだ時は、ワイルダーだったらどうするだろうと考えます。ただこの作品に関して言うと、ワイルダーの持つシニカルな部分や意地悪な部分はこの作品には向いていないな、と思ったんです。そこで、また大好きな映画監督の1人なのですが、こっちが恥ずかしくなるくらい人間を愛する、フランク・キャプラ監督の作風をモチーフにしました。この映画の中でも『スミス都へ行く』や『素晴らしき哉、人生!』を使わせていただいています。

今回は法廷を題材にした映画ということで、観客を証人席に立たせるような意識はあったのでしょうか?証人席というよりは傍聴席ですね。裁判ものも大好きで、僕は1961年生まれなんですが、僕が小学生の頃は毎日のようにテレビで古いハリウッド映画が放映されていて、『十二人の怒れる男』や『ある殺人』という作品もあったし、『ニュールンベルグ裁判』という軍事裁判の映画もあり、裁判ものの映画につまらないものはないと小学生のときに確信してたんですよ。それ以来、裁判ものはいつか自分もやりたいと思っていて、今回やっと実現したんですけど、とにかくリアリティを無視して、僕の想像の中のエンターテイメント性の高いドラマチックな法廷劇に仕上げました。

ニューヨークの観客の反応を見てどう感じましたか?どういう風になるのか気になっていたのですが、一番後ろで一緒に観ていて、字幕を読みながらニューヨークの人たちが笑ってくれているのを感じることができて、とても嬉しかったです。それから、日本で絶対に笑いが起きるところ、例えば今回カメオ出演的な佐藤浩市さんや草彅剛さんが出てきたりすると場内が沸くんですが、そういうところでは一切沸かなかった。つまり、こちらのお客さんは事前の情報のない状態で観て下さっていて、そんな中であれだけ笑っていただいたわけで、この作品の持つ力を改めて確認しました。

 

ステキな金縛り 2011年10月29日ロードショー

 

text by 岡本太陽